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大規模修繕工事
 12年目マンションの改修工事 住民側の記録 




 UPDATE 1999.6.30


プリントして管理組合の参考資料にお使いください。
 その時は、ご一報くだされば有り難いです。

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経緯と感想

マンションストックの推移
(単位 万戸、%)     
昭和55年
(1980年)
平成2年
(1990年)
平成7年
(1995年)
平成8年
(1996年)
平成12年
(2000年)
戸数割合 戸数割合 戸数割合 戸数割合 戸数割合
総ストック
5年超
10年超
15年超
20年超
25年超
30年超
35年超
94.3
51.1
13.4
2.0
 −
 −
 −
 −
100
54
14
2
 −
 −
 −
 −
216
151.2
94.3
51.1
13.4
2.0
 −
 −
100
69
43
23
6
1
 −
 −
296
216.2
151.2
94.3
51.1
13.4
2.0
 −
100
72
51
31
17
4
1
 −
311
234.8
162.0
106.1
56.0
17.9
2.0
 −
100
75
52
34
18
6
1
 −
369
296.4
216.2
151.2
94.3
51.1
13.4
2.0
100
80
59
41
26
14
4
1
(注)平成8年(1996年)以降の供給戸数については、年間14.5万戸(過去10年間の平均供給戸数)と仮定して計算した。
2000年には約370万戸の集合住宅が存在し、そのうち十年を経過した住宅が200万戸以上にもなります。

大規模修繕の目的

工事開始までの手順

  1. まず、事前調査と体制作りから
     いつ頃大規模修繕を実施したらよいかを見積もるため、建物全体の診断をしてもらう必要があります。私たちの場合は、1994年に高層住宅管理業協会のマンション保全診断センターに診断をお願いしました。

     理事会で診断センターの事前調査報告書を検討し、三年後に工事を実施することを決定しました。次の定期総会に計画立案作業の開始と修繕委員会の設置を提案し承認され、大規模修繕の一連の作業がスタートしました。この総会では調査・改修設計とコンサルタント契約費用も予算計上しました。工事費用は修繕積立金の取り崩しで実施しますが、事前の調査と改修設計費用は一般管理費から拠出しました。(工事が始まってからの工事監理の契約は、工事費用と同時に積立金から拠出)

     ここまでは理事会が主導で行いました。新築時に長期計画が作成されている場合は別ですが、そうでない場合は築後7〜8年目の理事会が提案する必要があります。また後述しますが、工事費用の積立金が足りない恐れもありますので、築後2〜3年目に理事会が軌道に乗ったところで長期計画を作成し、修繕積立金の見直しなども行うべきです。最近は建設省の指導等で新築時に長期計画も作成されている場合がありますが、やはり2〜3年目に理事会が内容の見直しをしておくべきでしょう。私たちの場合は、新築時の長期計画は無かったのですが、4年目の理事会が積立金の見直しをしていたので、工事費用の一時負担金徴収の必要もなく大変助かりました。

  2. コンサルタント決定まで
     とりあえず管理組合の理事の半数が委員会メンバーを兼任し、委員会スタート後に公募と口コミで人数を増やしていきました。全期間を通じて常時8割10名程度の参加者があり、且つ活発に討議されました。

     修繕委員会の最初の大仕事は、改修の設計をお願いするコンサルタントの選出です。素人集団で大仕事を進めるので、専門家の手助けが不可欠になります。建物調査と改修設計と修繕工事の監理の三つの仕事を担当してもらいますが、もう一つ重要な点は中立の立場で誠実な対応ができるコンサルタントを捜しました。通常は日常管理を依頼している管理会社が第一候補に挙がるようですが、私たちのマンションの管理会社の過去の仕事ぶりや対応を見ていると今回の大きな仕事を任すには頼りない点で委員の合意はすぐに得られました。その結果、なるべく広く探し自分たちの納得のいくコンサルタントを選ぶことにしました。広報で修繕委員や居住者の方、管理会社などから推薦してもらいました。その結果、ビル管理専門会社、建築設計事務所、デベロッパーなど7〜8社の候補が挙がりました。
     その中から数社に来てもらい、会社の方針、大規模修繕に対する哲学、修繕の実績などを委員会に説明していただきました。同時に見積もり書も提出してもらい、それらの結果に基づき比較対照表を作成し、二社に絞りました。最終投票までにはかなりの議論がありました。残った二社は工事監理としては大手の一社と、業界のなかでは異色の(どちらかというと煙たがれている)設計事務所です。実績と安心感から大手を推す委員も多くいました。他方、会社としては小さいが大規模修繕工事の従来の考え方ではなく、新しい考え方で積極的に取り組もうという姿勢に好感を持つ委員も多くいました。そして修繕実績のマンション数カ所を調査して、最終的には委員全員の投票の結果、過半数を得た後者の設計事務所に決定しました。

     見積金額は調査、設計、工事監理全体で、1000〜2000万円で幅がありました。最終的には金額の比較的高かったところに決めましたが、その理由は金額より取り組みの姿勢、建物の維持に対する考え方に委員が納得できたからです。また費用は工事自体の方がはるかに大きく、コンサルタント経費を少なくしても工事の質が下がっては何にもならないという理解が、委員の間にありました。またデベロッパー系の事務所に依頼すると工事施工業者との関係が強くなり、我々の不利になる可能性もあるので独立した設計事務所の方が良いとの意見もありました。もちろん比較対照表を含めて選出の全過程は、修繕委員会名で全居住者に広報しました。
    契約書に関しては、建設省の告示第1206号や、建設省・建築設計工事監理業務報酬調査委員会の資料などが参考になります。

     理事会で委員会の設置を決めてから、委員の募集を経てコンサルタントの決定までおよそ一年間を要しました。やや時間がかかりすぎた感がありますが、結果的には委員会メンバーの相互理解と勉強期間でした。損傷箇所について委員会が居住者にアンケートで調査を依頼し、委員自身も外壁その他を実地目視調査をしたことは、居住者の修繕への意識を高めまた委員の問題把握に役立ちました。専門家もいないので、何をすべきかの議論が多く出て、遅々として進まない時期がありました。しかし今考えると、この時期はコンサルタントを早く選出/決定することを最優先にするべきと思います。その後の作業項目、課題はコンサルタントが出してくれますから。

    この間の活動例 他のマンション工事の見学記  巻末にあります。

  3. 詳細調査と方針の決定
     次にコンサルタントによる建物の物理的調査と、居住者への詳細アンケート調査を実施しました。建物の物理的調査は、外観の目視観察からはじめ、外壁の塗膜剥離強度測定、コンクリートの内部抜き取り検査などが行われました。一方アンケートで、外部からは分からない欠陥(水漏れ、ひび割れなど)を中心に記載してもらいました。このアンケートは、10ページに及ぶ項目の多さでしたが、回収率が90%もあり居住者の関心の高さが推察されました。
     両方の調査の結果、建物の劣化程度がほぼ把握でき、改修設計の重点をひび割れの補修と防水工事の強化と給水関係の改善の三点に置くことに決定しました。なお、長期計画修繕に伴う調査費用については、江東区の助成(最高額70万円)があることを知りましたので、管理組合として必要資料添付のうえ事前申請をしました。調査完了報告後給付を受けました。

      塗膜剥離強度テスト          水漏れ箇所       

     

  4. 概略設計と長期計画の作成
     詳細調査の結果で改修設計の方針を決定し概略費用の見積もりを行いました。同時に共同管理箇所を明確にして長期の修繕計画も作成し、長期的に見た場合、今回どの程度の工事をしておけばよいかを明らかにしました。ここで分かったのは、今回の工事費用が約5億円であること、12年先の次回の大規模修繕では、更に二倍近い費用がかかることでした。つまりこの時点での修繕積立金は、今回の工事でほとんど使い果たし、次回までに今までの2倍のスピードで積み立てねばならない事が明確になったのです。長期計画の内容は、いつ頃どの様な工事を行い、どのくらいの費用がかかるかを示す工事計画と、その為の積立計画の二点です。
     長期計画も含めた全体像が明確になった時点で、理事会に報告・承認してもらい定期総会に合わせ全居住者に広報しました。前年の定期総会で、コンサルタントの決定と設計までの承認を得ていたので、総会では実施状況の報告だけをしました。工事業者の決定と工事の開始と修繕積立金の取り崩しについての承認は、詳細設計を終えた半年後の臨時総会で行いました。(下記の7)

  5. 詳細設計
     引き続きコンサルタントは詳細設計に入り、旧塗膜の剥がし方や仕上げなどの具体的な検討を行いました。この期間の委員会の役目は、コンサルタントの作る工事仕様書の内容を理解し、居住者の代表として意見・要求を出し、検討過程を居住者に広報する事です。アンケート調査でも検討過程を明らかにして欲しいとの要望が強かったので、補修方法を分かり易く図示するなど情報のスピーディーな公開には気を使いました。(月一回の広報誌発行) また、壁の塗装色については、委員会で選んだ2色を管理員居室の壁に塗り分けて示し、広報誌で全居住者のアンケート回答を求めました。結果は多数決で新築時の色になりました。

     詳細設計段階での問題点は、工事用車両の駐車場確保、現場事務所設置場所の決定などの敷地利用方法と工事範囲(共同管理と各戸管理の区分)です。駐車場や現場事務所は一部の居住者に迷惑をかけるので、決定までに時間がかかりました。また工事範囲についても共有と専有の境界についてひとつひとつ具体例で検討し、決定していきました。給水管や電気配線の管理責任範囲を明確にし、玄関扉や郵便受けは表と裏を分けて考えたりしました。さらに、工事を行う上で必要な作業(足場を組むための私用植木類や構築物の撤去、防水工事の際のベランダ人工芝撤去やエアコン室外機の移動など)の費用負担の問題もあり、これに関しては費用が各戸バラバラなので各戸負担としました。この件で居住者から基本的な考え方にクレームはありませんでしたが、規約に抵触してベランダにタイルを敷き詰めていたり、専用庭に板張りのフロアーを作っていた方もあり、撤去費用がかさむ場合は実施段階で個別に説得しました。

  6. 施工業者の決定
     約4カ月をかけて工事仕様書を作成し、施工業者の公募に進みました。公募は業界の専門誌「月間リフォーム誌」に公募広告を掲載しました。応募してきた業者は31社で、そのうちから19社を選び現地説明会を開き、コンサルタントから工事仕様書の説明を行いました。三週間後に見積書を提出してもらい、それと各種資料をもとにコンサルタント同席の委員会、理事会にて施工業者を選定しました。総会での決定までに以下の過程を踏みました。
     現地説明会への業者を絞り込む際の判断基準は、資本金の大きさ、工事実績などとし、業種(ゼネコン、ビル管理、塗装など)は広く採りました。見積もり提出後の施工業者の絞り込み基準は、上記に加えて工事見積もり金額と会社四季報やダイヤモンド誌および興信所のデータ、直近2カ月の株価、金融機関の保証または保険の有無なども用いました。また見積もり期間中に現場の下見に何人、何回来たのかのデータも参考にしました。なかには一度も現場を見ずに見積もりを提出してきた業者もあるので、管理事務所で業者訪問リストを作成しておく方が良いと思います。

     工事業者の選定過程はできる限り公にして居住者が疑問を持たないようにしました。もちろん入札後ですが、公募方法、入札業者リスト、見積金額、折衝後の確定金額をすべて広報誌で明らかにしました。全居住者の財産でもある修繕積立金の使用過程はガラス張りであるべきです。そうすることにより、工事の実施に関して居住者の協力も得られます。

  7. 工事計画の承認
     工事の実施は、管理組合の総会で決定し住民の総意としなければなりません。総会で承認を得るに際し、修繕積立金の取り崩しと、理事会で決定した工事内容、工事業者での実施について、事前に住民説明会を二回実施しました。コンサルタントにも参加してもらい工事内容を外壁仕上げの実物サンプル等を交え説明しました。今までの総会その他の会合でもなかった居住者の約2割にあたる90所帯を越える多くの参加者がありました。

     これに先立ち、工事予定金額の詳細(戸あたり費用の概略)を公表するか否かについては委員会、理事会の中にも賛否両論がありました。工事業者の入札前なので予定金額がもれると談合等の恐れもあり避けるべきであるとの意見と、総会で決議する前に情報はなるべく明らかにすべきであるとの意見がありました。議論の結果、修繕積立金増額の提案もする予定だったので公表する事にしました。入札業者をなるべく異業種を含むようにしてあるので、談合の危険性は少ないとの読みもありました。実際は予定金額より約2割低い落札金額だったので総会でもスムーズに承認され、公表は結果的によかったと思います。

     臨時総会では、組合員の約7割の議決権行使があり、反対は1%でした。さらに12年後の大規模修繕工事の準備として修繕積立金の値上げも同時に提案し、承認されました。その時の説明内容は別項に記してあります。
     総会当日は50名ほどの参加者がありましたが、事前に説明会と広報誌で十分な説明をしたので、基本的に工事の実施や修繕積立金の値上げに反対意見も出されずにスムーズに終了しました。総会後に各戸の負担になるオプション工事の費用についての質問があり、住民の関心はもっと実際的な事柄にあることが分かりました。

     その後、施工業者による工事説明会を開き、より詳細な説明を行ないました。防水工事の妨げになるベランダの人工芝を剥がしたり、足場を組む際に邪魔になる庭の植木の移動などの各戸費用負担のオプション工事の説明も行いました。その時は二日間で計四回の説明会を開催しましたが、全戸の約50%にあたる世帯の参加がありました。総会前の居住者説明会に比べると参加者も一段と増え、関心が高まってきたのが分かります。質問も具体的になってきて、ベランダにタイルが張ってある家庭など個別の問題点も分かってきました。

     同時に工事監理の業務委託契約と工事請負契約の契約書の検討と契約締結を行いました。工事請負契約書は7つの社団法人で提案している民間連合協定の工事請負契約約款をベースにしました。(民間連合は以下の7社団法人です。日本建築学会、日本建築協会、日本建築家協会、全国建設業協会、建築業協会、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会)

 ・業者の選定から工事までの日程表

 ・工事中の生活不便項目の広報内容 巻末にあります。

工事の実施

  1. 工事の開始にあたって

     工事は近所の富岡八幡宮で行った安全祈願祭から始まりました。並行して現場事務所、工事関係掲示板の設置を行い、足場架設のための自転車移動、専用庭の植木等の移動を居住者の方にお願いしました。

     毎週土曜日の夕方に、三者(工事請負会社、工事監理会社、修繕委員会)の定期会合を開き、そこで工事の進み具合のチェックと工事を進める上での問題点確認及び解決策の検討を行うことにしました。

  2. 工事実施上の問題点

     実際に工事が始まると様々な問題点が発生しました。そのいくつかを以下に列記しますが、経験不足のために起きた問題の他に日常の管理が不十分であったために起きた問題もあり、管理組合のあり方について考えさせられました。

    自転車仮置き場
     工事準備を始めてすぐ問題が発生しました。当初、自転車置き場は半分ほど使えて、一部を移動すればよいと考えていましたが、実際には全面的に移動する必要があり、自転車仮置き場のスペースが足りない事が分かったのです。緊急に理事会で検討した結果、二階建ての仮置き場を作るなどのアイデアが出ましたが、何とかスペースを探して収納することで乗り切りました。玄関の通路にも自転車が溢れ、通行にも不便な状態で、居住者の方にも大変迷惑をかけました。もう少し前に分かっていれば、自転車の整理も出来たのですが。(私たちのマンションは自転車を毎年登録する制度を導入していたので、今年の分を早めに実施しておけば良かった。自転車共有制度の導入で自転車の総数を減らしておくことも可能だった。)

    機械式駐車場
     次に発覚した問題は、駐車場に関してです。敷地内の駐車場は一部が二段式の機械駐車場になっているが、その施設が予想以上に痛んでいることが分かったのです。常日頃塗装をするなど手を入れていれば、こんなにひどくはならなかったと予測され、メンテナンス会社、管理組合、利用者、管理会社の管理体制に問題があったようだ。

     調べてみると油圧で上下する方式は、メンテナンス費用が高価で、最近はあまり使われなくなっているようです。費用対効果の点からも、この際全面的に入れ替える案も出されましたが、検討した結果、傷みのひどいパレット部分のみ全数交換しピット内の排水を改善することになりました。費用は工事の予備費だけでは賄えないので、新たに積立金を取り崩す総会決議(工事期間内の定期総会)をしました。管理会社まかせのメンテナンス契約内容チェックと日常の管理の大切さが身にしみました。

    ベランダ工事
     工事に必要なベランダの整理に関しても問題が発生しました。ベランダにタイルを敷き詰めている人があり、撤去費用が高価で個人負担できないと撤去を拒んだのです。本来、ベランダは共有部分でありタイルを敷き詰める等の無断改変工事は禁止されています。しかし現実に発生してしまった場合の処理に苦労しました。このような問題は、日頃から広報等で十分に周知しておく必要があります。

     各家庭のベランダにはエアコンの室外機や植木類があり、防水工事のためには全面的に移動しなければなりません。植木類は部屋の中に収納するには量が多いため、敷地内に一時置き場の台を作りました。そこへ各家庭で植木を運んでもらい、水やり等の管理と撤収も各自の責任で行いました。しかし結果的には枯れてしまった植木が多数発生したこと、最後に撤収されずに残ってしまった植木類も多く出て、あまり良い方法ではなかったようです。しかし、他によい案は出ませんでした。今後の課題です。

     工事終了後のアンケートで一番不満の多かったのが、ベランダ工事に関することでした。塗装のために窓や換気口やエアコン室外機に養生(ビニールで覆う事)をしたために、室内が蒸し暑く不快な生活を強いられたからです。各家庭の工事期間は二週間ほどでしたが、生活者にとってはつらさの一番の山場です。いつ洗濯ができるのか、いつビニールが取れるのか、いつエアコンが使えるのかと1日千秋の思いでした。玄関周りの工事も含め、生活に直接関係する工事は期間を短縮する方法、きめ細かい連絡など施工側の工夫を是非お願いしたいところです。私たちがお願いした業者の方も、その辺は十分に理解していたのですが、現在良い解決策はないようです。業界全体として新しい技術開発(工事法、工程管理システム)を出来ないものでしょうか。

    ダクト清掃
     台所や風呂場の換気扇ダクトの清掃では予想外の問題が発生しました。今回の大規模修繕は専有住居の外部を中心に実施しましたが、台所の換気扇排気口からの汚れが外壁の汚れを加速する恐れがあったので、唯一の例外として専有住居内部の天井裏排気ダクトの清掃も一斉に実施しました。その過程で、吸気ファンに吸気ダクトが接続されていなかったり、接続が間違っていて逆流したりしている箇所が発見されました。接続部分がテープでしっかり固定されていないため振動音が大きいものもありました。天井裏のダクトは普段は見ることもないので、居住者の方もおかしいなと思いながらそのままにしてある場合が多いようです。

     点検口から簡単に直せる場合は問題ないのですが、場所によっては天井の一部を切り取る工事が必要になり費用負担が問題になりました。明らかに新築時施工の欠陥なので、費用負担は新築施工業者と折衝しました。この件に関しては施工業者も非を認めて、工事はその業者が行いました。

     同様な問題は今回は対象にしなかった床下の排水管や電気工事など、通常の生活では気付かない部分にも発生する可能性があります。大規模修繕工事はこの様な新築時の瑕疵を発見する可能性が高く、保証期間の考え方に大きな問題提起をしていると思います。その意味で大規模修繕工事は、新築を担当した業者とは別の業者に依頼したり、改修設計はデベロッパーに依存しない設計事務所などに頼むのも意味があると思います。  

    工事予定の広報
     修繕工事の特徴は、なんと言っても生活をしながら工事をしなければならない事です。生活者の実感としては、まるで工事現場に住んでいるようでした。そのような状況で住民が知りたい情報は、自分の家に工事が来るのは今日なのか、明日なのかということです。一方、工事をする側では数日の期間内に何軒かをまとめて処理したい事情があります。この数日のずれがいろいろな誤解を生み、住民の不満が現場事務所に寄せられることになります。
     また、奥さん同士の情報網で、工事の進行より情報が先行して、私の家はきちんとした工事がされていないなどの不満がありました。工事の内容は細分化されており手順に従って実施されるのですが、生活している側からはそれが良く見えません。工事業者には広報はなるべく細かくしてもらうように頼みましたが、限界があります。工事全体が見えるように分かり易く表現し広報する点に関しては、良いアイデアはありませんでした。工程管理と住民への広報をきめ細かくリンクできるようなソフト開発が必要ではないかと感じました。

  3. 工事終了後の居住者アンケート結果

    三回にわたって広報誌に添付したアンケート用紙に多くの回答を頂きました。(回答総数 145) 以下にその結果を広報した内容をそのまま記します。

    (1)工事の範囲と費用について満足ですか
      a. 満足              60
      b. 普通              71
      c. 不満足              6
      d. 分からない            8

    (2)修繕委員会の方針が理解できましたか
      a. 広報等を通じてよく理解できた  101
      b. 普通               40
      c. 理解できなかった         3
      d. 他                1

    (3)工事の日程、段取りは伝わりましたか
      a. 掲示板やビラで良く理解できた  82
      b. 普通              53
      c. 理解できなかった         9
      d. 他                1

    (4)工事は順調に進みましたか
      a. 満足              43
      b. 普通              76
      c. 不満足             21
      d. その他              5

     アンケートに記された居住者のコメントや修繕委員の感じた反省点などを踏まえて、次回に向けての課題をまとめました。

    (1)工事内容の広報のやり方
    アンケートにも多くの指摘がありました。多かったのは、自分の家に関係する工事がいつ行われるのかをもっと詳しく知りたいという事です。工事施工側からは段取りの関係で数日から一週間程度の範囲で、各棟の工事内容を広報しますが、住民側からは一日単位の情報が知りたい希望があります。特に外出が制限されたり、洗濯物が干せない場合などです。双方の事情のずれが問題となりました。
    修繕委員会の中でも討議されましたが、戸数が多くとても現在以上の詳しい情報を出すのは難しい状態でした。次回までには、工程管理のコンピュータ化も更に進むでしょうから、よりきめ細かい広報ができると期待したいところです。 その他、専門用語を使わない等の工夫も必要です。

    (2)日常の管理
    工事金額が予定より大きく変更になったのは、詳細に調査すると予想以上に痛んでいることが分かった箇所です。機械式駐車場が金額的にも内容的にも現状と認識のずれが大きかった。毎年の定期検査と、適切なメンテナンスが施されていれば、今回ほどの追加金額は必要なかったと思われます。メンテナンス会社、利用者、理事会、管理会社の今後の課題です。
    そのほかにも、毎年の小修繕でこまめに直していくべき項目も見つかりました。

    (3)修繕積立金
    アンケートにも指摘がありましたが、大きな混乱もなく工事が行えたことは、一時金の負担がなかった事が大きいと思います。その意味で5〜6年後に再度修繕積立金の見直しを行うなど、次回の工事も一時金の徴収なしで行えるように今後の理事会に配慮をお願いしたい。
    次回の工事は外壁の補修以外に、給排水関係等にも本格的な補修が必要となりますので、積立金は十分用意する必要があります。

    (4)オプション工事の金額
    ベランダの防水工事のために、エアコンの室外機や人工芝の撤去が必要でしたが、その金額にも誤解がありました。居住者側からは大した作業をしていないように見えても、防水をするために接着剤を完全に剥がしたり、室外機を移動して元に戻すためにテープを巻き直したり等手間がかかっているのです。次回には居住者側に不満が残らないような工事内容と価格の情報が必要と思われます。

  4. 竣工式

     1998年8月末ですべての工事が終了し、9月5日に竣工式を行いました。竣工式は管理組合が施工者と監理者を招待し、工事関係図書の引き渡しと工事の完成に感謝し感謝状を贈るものです。返礼として施工者から敷地内に記念木を送ることが伝えられました。
     これで8ヶ月の工期と延べ12,000人以上の作業者と5億円弱の費用を投入した修繕工事が、一件の事故もなく終了できました。式でのあいさつで多分にお世辞でしょうが、「これだけの大工事がこれほどスムーズに進行できたのは、居住者の方々の忍耐とご協力のおかげです。非常に希な成功ケースと思います。」との言葉をいただき、4年間の苦労が報われた気がしました。

     その後引き続いて、敷地内の広場で居住者参加の「竣工祭」を催しました。新装なった建物のもとに、やきそば、わた飴、たこ焼きなどの屋台を出しましたので、多くの子供と居住者が参加し300食用意した食べ物はあっという間になくなりました。管理組合の理事、修繕委員の方々も大役をなし終えた為でしょう本当に楽しんでいました。

実施体制

資金計画、長期計画

     今回の工事費用は、一戸当たり約100万円弱でした。入居当初の修繕積立額は一戸当たり平均月額2300円程でした。4年目に当時の理事さんたちの努力で平均月額6600円に増額し、その後も駐車料金の一部を修繕口に繰り入れるなどして積立の増額を図りました。その結果、工事は各戸の一時負担金なしで実施できました。居住者のコンセンサスが得られ大きな混乱もなく実施できたのは、積立金で賄えたのが大きいと思います。先任理事さんの先見の明と努力に感謝しています。

     同様に次回(12年後)に備えて、積立金の増額を準備しなくてはなりません。次回は一戸当たり約150万円、中間の6年後の中規模修繕も加えると、約200万円と予測されています。臨時総会で工事計画の承認と共に、今後の修繕積立金の増額も承認を得ました。その時は以下の四資料を示して説明し、大きな反対意見もなく乗り切れました。

・積立金残高の推移
 当初、修繕積立額は一戸当たり平均月額2300円程でした。そのままでは図中の実線のようになり、今回の工事費用は充足できませんでした。4年目に当時の理事さんたちの努力で、平均月額6600円に増額し、その後も駐車料金を修繕口に繰り入れるようにして積立の増額を図り、そのため今回は一時金なしで工事が出来る見通しとなりました。 

・今後の積立金の推移予測
 三通りの予測値を示し、結果として現行の1.5倍に値上げし、6年後に再度見直すことにした。

・修繕積立金の実例
 値上げ後の修繕積立金のレベルが他のマンションの例に比べて決して高くはないことを示した。数値は1996年当時のもので、あくまでも参考値にして下さい。

・長期計画の戸あたり費用概算
 概略工事費用を全戸数で割った金額です。したがって建物の規模やタイプによって変わりますのでご注意下さい。平成10年の金額は入札前の予定額です。社会状況などに左右されるので、あくまでも参考にとどめて下さい。また今後の工事金額の変動などは考慮していません。



新築設計時の瑕疵について

     コンサルタントによる建物調査の段階でも、また実際に工事が始まってからも新築時の設計/施工上の問題点もいくつか発見されました。築後十年の建物としてはひび割れの程度がひどく、各戸ともほとんど同じ場所に発生してしていることより、設計か施工上の問題であることは明白と思われました。しかし、建て主に申し入れた結果は、「経年変化であり責任は無い」というものでした。
     そこで外壁の塗装を剥離してから下地の様子を詳細に調査し、全建物のデータをつけて、更に現場を見てもらって再度交渉を行いました。この交渉は、工事の終了まで続きました。最終的には瑕疵に相当すると私たちが主張した金額の一割程度の修繕協力金という名目で決着しました。住宅公団では、この様な場合はある一定の費用負担を得られるそうですが、民間マンションの場合もそのようなルールが必要と感じました。



 日常管理の改善 

1999.2 臨時総会で管理会社の変更を決定!!

管理会社の古い体質に管理組合の強い意志で挑戦
年間で約1400万円の経費節減を達成 


私自身は理事を退任しているので、細かい事情はわかりませんが
理事当時の資料と現理事の方からの情報を併せて紹介します。

管理の質改善の必要性  

  1. 居住者の声
     歴代の理事さんや知り合いの間で、現在の管理会社の問題発生時の対応が悪い、窓口解放時間が短く不便等の声がありました。
     理事会で実施されたアンケートでも、対応の悪さ(建物の日常管理に鈍感、管理室でペットを飼育しているなども含めて)、改善の意志が見られない点がはっきりしました。
        項 目           比 率
     管理室(人)の対応が悪い      36%
     雨漏り等建物の傷みがそのまま   28%
     ペットの苦情改善して欲しい    18%
     居住者のモラルアップのアピールを 15%
     共有部分の清掃の質低下      15%
     自転車置き場整理         13%
     管理室の時間延長         13%
     誤報時等のアナウンス改善     13%
     ごみ置き場の整理         10%
     違法駐車の取り締まり        8%
     外部の人の出入りが多い       8%
     ピンクチラシ等の取り締まり     8%
     その他
      電気、水道、ガスなどのメンテナンス会社の
       連絡先リストが欲しい
      来客用駐車場が欲しい
      レンタカー仮置き場が欲しい
      ピアノなどの上部階の音がうるさい
      自動販売機の周りが汚い
      タバコの自販機は撤去して欲しい
      植裁が貧弱になっている
      駐車場の抽選方法改善
      総会に書類が見にくい
    
  2. 理事の声
     上記のアンケート以外のアンケート調査結果でも、日常管理の問題点は種々挙がっていた。それらの問題点を理事会で検討しても、管理会社の積極的な対応と適切な提案がなく、理事の間にも不満がたまっていた。
     そして決定的な動機は、NHKTVの特集で管理会社を変更して成功して例が紹介されたことです。管理人さんが定年で交代する時期を迎えていたことも重なり、一気に見直しの気運が高まりました。


管理会社再検討  

 見直し作業のはじめに管理会社数社に同一の条件で見積もりを出してもらい、管理の質改善の検討を行いました。見積もりを依頼した管理会社は、マンション管理に関する新聞を発行している会社から、紹介してもらいました。もちろん現在の管理会社も含まれています。その検討結果を一覧表で示します。

 最大の決定要因は、費用でした。現在の管理会社も、従来より年間で戸あたり約5千円ほどのコストダウンを提案してきましたが、比較表で見ると従来より3万円も低い見積もりを提示してきたところもありました。
 内訳を検討すると、委託管理料、駐車場保守費、昇降機点検費など企業努力の結果であることが確認できたので、管理会社を変更する決断をしました。
 1 会社規模に対する役員数など、経営の効率化が認めらる。
 2 駐車場と昇降機の点検会社と交渉し、コストダウンの努力をした。
等の点が決め手でした。コストダウンは修繕積立金を2500円値上げしたことに相当します。

もちろん費用以外のポイントも重要で、主には
 1 経営トップが具体的な提案を積極的に行ってくるなど、
   経営姿勢に好感が持てる。
 2 管理組合が管理人のプロファイルを指定できる。問題がある場合
   は交代を要求できる。
 3 事務所窓口の朝晩の営業時間を延長できる。
 4 長期修繕計画に対する取り組み姿勢。
などですが、住民にとっては当然な内容ばかりです。しかし、いずれも現在の管理会社に対する不満が背景にあるため、重要視されました。こんな当然な点が決め手になるところが、現在のマンション管理業界の問題点であるような気がします。

居住者の不安は?
 しかし決定のための臨時総会では、管理会社を変更することに対する不安が多く出されました。本社が東京にないので対応が遅くなるのでは? 十二年間の実績が無駄になるのでは? 仕事を取るためのダンピングではないか? 管理の質が落ちるのではないか? 等です。しかしそれらは実情をよく知らないための不安で、管理組合が自信を持って一つ一つ応対し納得していただきました。結果的に反対票は4票(全住民の1%)で、多くの方の賛同を得て承認されました。


管理会社、管理組合の課題  

 現在のマンション管理業界と管理組合には、多くの問題点があると思います。マンション管理会社の多くは、新築時の施工者の一部門や関連会社である場合が多い。今回見積もりに参加した管理会社も、ほとんどはデベロッパーの関連会社であった。よく指摘されるように、ほとんどのマンションは、新築時に無競争で指定の管理会社が管理を請け負い、その後も抜本的な見直しをせずに、自動延長契約で推移しているのが一般的ではないだろうか。

 現在のぬるま湯体質が、上述した「住民にとっては当たり前の要求」が、革新的なことに感じられる状況を生み出していると感じます。最近は新築分譲の際のうたい文句で、「管理の質」を強調している例もでてきてはいますが、マンション管理業界全体がもっと近代的な体質、競争原理を導入出来る体制になることを期待したい。

 私たちの場合も同様で、歴代の理事会が問題を感じつつも、なかなか変更に踏み切れませんでした。何人かの住民(理事経験者)に話を聞くと、「よくやった」と今期の理事会に拍手を送っています。理事会の強い意志が、約1,400万円あまりの経費節減を達成したのです!




投稿掲示板 -情報交換の場にしましょう-

     集合住宅の大規模修繕工事は今後ますます増加するでしょう。しかし、それを担当する住民はほとんどが素人の筈です。いつ何をしたらいいか、どのくらい費用がかかるのかなど、全く分からないのが普通です。

     そこで修繕工事を体験して各種の情報をもっている方の情報交換の場として、このホームページを開放することにしました。御自分の体験例や役に立つ情報など、これから修繕工事を始める方に参考になる情報をお寄せ下さい。その際、名前、所属、メールアドレスの公開の可否についてもお知らせ下さい。2〜3週間でHTML化して掲載いたします。ただし他者の非難・中傷、企業宣伝など適切でない内容については掲載をお断りする場合があります。