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海外SF&ファンタジー 感想録

 「SF」というものは、大学生になるまであまり意識して読んでいなかったように思う。アシモフ、ブラッドベリにバロウズの<火星>シリーズ、E.E.スミスの<レンズマン>シリーズ、ハーバートの<デューン>シリーズくらいか。1983年からアシモフの読み残しやフレドリック・ブラウン、ゼラズニイの<アンバー>シリーズ、<ローダン>シリーズなどに手を出し、1984年夏頃からまとめていろいろ読んだ。一応古典からサイバーパンクくらいまでおさえてそれぞれにおもしろかったが、なんとなくSF小説はどこか今ひとつ個人的にのめりこめる作品が少ない気がする。SF漫画にはすごく好みの作品もあるのだが、ファンタジーに比べて「美しさ」が足りないからか。それでもSFは好きなジャンルなのだが。科学的な描写はわからないものも多いが、それなりに説得力を持って読ませてくれればOK。
 ファンタジーは児童文学の流れから来て、1979年にハヤカワ文庫FTが創刊されて以来、別世界ものが日本でもよく読めるようになって嬉しい。<ハリー・ポッター>以来児童ファンタジーもいろいろ出るようになったが、なかなかフォローしきれない。そのへんは、まあ、ぼちぼちと。「幻想文学」にも挑戦したいと思わないではないのだが、「怪奇」「ホラー」は苦手なこともあってタニス・リー止まり。
 筆者が読んだ作家・作品について、感想を交えて簡単に紹介するが、児童文学の方と異なり大体年代順に並べたいと思う。いずれ五十音順索引をつける予定。「裏」ページは設けないので、ネタバレもあり、未読の方はご注意を。誤りなどあれば御教示いただければ幸いである。(2019年7月28日現在工事中)

2010年8月20日制作開始 鈴木朝子

凡  例

1.収録内容
 SFまたはファンタジーを執筆した海外の作家名を見出しにして、原則一作家一作品、筆者が読んだ作品について、感想を中心にして簡単に紹介した。児童文学については「児童文学の部屋」を参照されたい(一部人物の重複あり)。
2.配列
 おおむね掲載作品の原出版年順。作家の生没年、複数の作品の原出版年によるものもある。
3.見出し人名と生没年・国籍
 見出し人名は日本で一般的によく用いられる形で示した。
 姓,名の形にしてまずカタカナ表記で示し、次に原綴を出した。姓・名に分けられないものはそのままの形で記載した。図書によってカタカナ表記が異なるものがある場合は後ろに( )で補記したものもある。
 生没年は、西暦で見出し人名の後ろに( )に入れて示した。
 国籍は、生没年の後ろに示した。 複数の国籍がある人についてはその旨を適宜記載。
4.作品
 書名、巻次、訳者、出版社または叢書名、出版年、原書名、原出版年を記載し、読んだ年と自分の中での評価(A、B、C、D、の四段階)を入れてみた。東京創元社の文庫のSFは現在は「創元SF文庫」だが、以前は「創元推理文庫」の「SF部門」だった。自分が読んだ時期によって現在はSF文庫のものも修正はしていない。
 一つの作品で複数の翻訳・版がある場合は、原則として筆者が読んだ版を示した。
 はSF、はファンタジー・幻想小説。
5.感想・紹介文
 本文中の単行本や短編集などの書名は『 』で、短編の作品名や雑誌名などは「 」で、シリーズ名は< >で示した。作品名は日本で翻訳のあるものはその翻訳名(数多くの翻訳名があるものは適宜適当と思われるもの)を用いた。
6.主要参考文献

1899年まで

シェリー,メアリー Shelley, Mary (1797~1851*英)
『フランケンシュタイン』(1984)創元推理文庫 森下弓子訳 : '85/C
   Frankenstein ; or the Modern Prometheus(1818,1831)
 教養古典。人造人間ネタなのでSFとして。というか、「ゴシック・ロマン」だからどちらかというと「怪奇・幻想小説」の方か。
 よく誤解されているが、「フランケンシュタイン」は作中の人造人間の名ではなく、その創造者の名前である。人造人間自体には名はなく「フランケンシュタインの怪物」と呼ばれている。和田慎二の漫画「わが友フランケンシュタイン」では「サイラス」と名づけられており、外見は醜くても心優しい男として描かれていたが、原作ではどうだったか…忘れてしまったなあ。「醜い人造人間」のこととして「フランケンシュタイン(の怪物)」はほとんど一般名詞化しているが、原典をきちんと読んでいる人は今ではあまりいないかも。
 作者は無政府主義者のウィリアム・ゴドウィンと女権論者のメアリ・ウルストンクラフトの娘で、詩人パーシー・シェリーの妻。家族はすべて著名人。
(2010.7.25記)
ヴェルヌ(ベルヌ),ジュール Verne, Jules (1828~1905*仏)
『海底二万リーグ』(1962)ハヤカワSFシリーズ 村上啓夫訳 : '98/C
   Vingt Mille Lieues sous les Mers(1869)
 SF古典の一つなので読んでみた。訳題は『海底二万里』『海底二万海里』『海底二万マイル』など多数あり。「冒険小説作家」という感じだが、やはり「SFの父」の一人だからこちらで。
 「ネモ船長」「ノーチラス号」といった固有名詞が、普通名詞のように使われるほど著名な作品。世界初となるアメリカの原子力潜水艦は「ノーチラス号」と名づけられた。当初の船の沈没事件の真相、船長の行動の理由はともかく、創造上の光景であるはずの海底の状景が生き生きと描かれているのが楽しい。古さは免れず、技術面や自然描写的には実際はあたっていない点も多いかもしれないが、今読んでもそれなりに魅力の感じられる作品。
 初期の推理小説によくあるように、主人公というか、一人称の語り手がいるのだが(あと若い読者対応のためか助手の若者も)、そんな人物がいたことは読み終わって時間が経つと忘れてしまうかも。
 『神秘の島』(未読)にもネモ船長が出てくるが、物語の中の年代などに矛盾があるので直接の続編とは言えないとのこと。


<その他の作品>
 『地底旅行』Voyage au Centre de la Terre(1864)
 『月世界旅行』
  「地球から月へ」De la Terre à la Lune(1865)
  「月世界へ行く」Autour de la Lune(1870)
 『グラント船長の子供たち』Les Enfants du Capitaine Grant(1868)
 『八十日間世界一周』Le Tour du Monde en Quatre-Vingts Jours(1873)
 『神秘の島/謎の神秘島』L'Île Mystérieuse(1875)
 『十五少年漂流記/二年間の休暇』Deux Ans de Vacances(1888) : '76以前/A
 他多数


→作家やその他の作品については「私的 児童文学作家事典〔海外編〕」「ヴェルヌ(ベルヌ),ジュール」も参照のこと。
(2010.7.26記)
ハガード,ヘンリー・ライダー Haggard, Henry Rider (1856~1925*英)
『ソロモン王の洞窟』(1972)創元推理文庫 大久保康雄訳 : '87/C
   King Solomon's Mines(1885)
 秘境冒険もの。幻想味は薄かったように思うが、入っている叢書が通称「帆船マーク」で、かつての〔怪奇と冒険部門〕、現在の「ホラー&ファンタジィ」なので、こちらの方で。ほとんど内容を忘れてしまったのだが、この手の秘境冒険ものはノリはほとんどファンタジーだし。
 主人公アラン・クォーターメンは続編『二人の女王』(未読)に再登場するほか、アメコミを原作とした映画「リーグ・オブ・レジェンド」にも主人公として出てくる(演者はショーン・コネリー)。日本では一般的にはあまり著名ではないが、欧米では今でも人気が高いのか?
(2010.7.31記)
モリス,ウィリアム Morris, William (1834~1896*英)
『世界のかなたの森』(1979)晶文社(文学のおくりもの14) 小野二郎訳 : '89/C
   The Wood beyond the World(1894)
 読んだんだけど、確かに読んだと記録してあるのだけれど、全くと言っていいくらい覚えていない。若者が不思議な旅をする短めな物語のようなのだが…。
 現在は装丁の美しい<ウィリアム・モリス・コレクション>の一冊となっている。
 モリスは詩人でもあり、テニスンの死後桂冠詩人に推されたが断ったとか。社会主義の活動などもしていたから、王家から年金をもらって慶弔の詩や戦意高揚のための詩を詠んだりするのが嫌だったんだろうか? 図案化された植物の模様の壁紙や家具など、デザインの方面でも著名。
(2010.8.25記)
ウェルズ,H.G. Wells, Herbert George (1866~1946*英)
『宇宙戦争』(1969)創元推理文庫 井上勇訳 : '98/B
   The War of the Worlds(1898)
 SFの古典。有名な作品だが、オチを全く知らずに読んだ。SFのテーマの一つ「侵略もの」の元祖的作品。馬車で逃げるなど時代がかったところがあったり、途中で登場人物が哲学談義めいたものを長々とするなど古さはあるものの、結構おもしろく読めた。
 原題は「世界戦争」、「世界」は複数なので意訳すると「二つの世界の間の戦争」か。ただ圧倒的に火星からの侵略者側が強いので、「戦争」そのものは勝負にならないのだが。結末はあっけないようだが、あの戦力差ではああでもしないと人類に希望はなかったかも。
 パニックを引き起こしたというラジオドラマのほか、何度か映画化・テレビ化もされ、パスティーシュ小説も多い。タコ型火星人・三本足の乗り物など、ビジュアル的にも後世に大きな影響を与えた。
 ウェルズには小説以外にも歴史や社会主義など多岐に渡る著作があるが、ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれ、『宇宙戦争』のほかにも『タイム・マシン』『透明人間』『モロー博士の島』などの「SFの古典」とされる作品を執筆している。

<その他の作品>
 『タイム・マシン』The Time Machine(1895)
 『モロー博士の島』The Island of Dr. Moreau(1896)
 『透明人間』The Invisible Man(1897)
 他多数

(2010.8.25記)

1900年代

ダンセイニ,ロード Dunsany, Lord (1878~1957*アイルランド)
『ペガーナの神々』(1979)ハヤカワ文庫FT 荒俣宏訳 : '84/C
   The Gods of Pegāna(1905)
   Times & the Gods(1906)
 独特なムードを持った、雄大な創作神話。断片的な言い伝えのような短いエピソードの連なりからなる。具体的な内容はほとんど忘れてしまったが、〈宿命(フェイト)〉と〈偶然(チャンス)〉が賽をふったがどちらが勝ったかわからないとか、太鼓をたたく神とか、眠っている神とか…。
 通称「ダンセイニ卿」の本名はエドワード・ジョン・モアトン・ドラックス・プランケット、18代ダンセイニ男爵(Edward John Moreton Drax Plunkett, 18th Baron of Dunsany)。日本を含め、多くの作家たちに影響を与えた。
(2010.8.29記)

1910年代

バローズ(バロウズ),エドガー・ライス Burroughs, Edgar Rice (1875~1950*米)
『火星のプリンセス』(1965)創元推理文庫 小西宏訳 : '80以前/B
   A Princess of Mars(1917)
 スペースオペラ、というよりほとんど異世界ファンタジーなノリの<火星シリーズ>第1巻。シリーズ初刊としてこれを。序盤の三作は事実上三部作なので、まとめるべきかもしれないが。主人公ジョン・カーターは地球人だが、いろいろ謎なことも多い人物だ。そのへんやなぜ火星なのか、というようなことはとりあえず置いておき、主人公たちの活躍を楽しむ物語。
 はじめは地球人とかけ離れている緑色人を強調していたのに、その後出てくる赤色人・白色人・黒色人・黄色人は地球人と大差なく、ちょっと拍子抜けなところもあるが、波瀾万丈な冒険物語としておもしろく読める。
 シリーズには第1巻からの主人公ジョン・カーター以外の話もあるが、私の好きな話は第7巻の『火星の秘密兵器』。お姫様でない活動的なヒロイン、タヴィアが魅力的だ。
 日本版は武部本一郎の美麗なデジャー・ソリスなどの表紙絵・挿絵でも著名。最近は3冊ずつ合本になった版が出ている。
 バローズにはほかに<金星シリーズ><ペルシダー・シリーズ><ターザン・シリーズ>など作品多数。<火星シリーズ>のあとには<木星シリーズ>を書く構想もあったようだが実現せず。

<火星シリーズ> 創元推理文庫(SF部門)
 『火星の女神イサス』(1965)小西宏訳 The Gods of Mars(1918) : '80以前/B
 『火星の大元帥カーター』(1966)小西宏訳 The Warlord of Mars(1919) : '80以前/B
 『火星の幻兵団』(1966)小西宏訳 Thuvia, Maid of Mars(1920) : '80以前/B
 『火星のチェス人間』(1966)小西宏訳 The Chessmen of Mars(1922) : '80以前/B
 『火星の交換頭脳』(1966)小西宏訳 The Master Mind of Mars(1928) : '80以前/B
 『火星の秘密兵器』(1967)厚木淳訳 A Fighting Man of Mars(1931) : '80以前/B
 『火星の透明人間』(1967)厚木淳訳 Swords of Mars(1936) : '80以前/B
 『火星の合成人間』(1968)厚木淳訳 Synthetic Men of Mars(1940) : '80以前/B
 『火星の古代帝国』(1968)厚木淳訳 Llana of Gathol(1948) : '80以前/B
 『火星の巨人ジョーグ』(1968)厚木淳訳 : '80以前/B
  「火星の巨人ジョーグ」John Carter and the Giant of Mars(1941)
  「木星の骸骨人間」Skelton Men of Jupiter(1943)

(2010.9.11記)

1920年代

リンゼイ,デイヴィッド Lindsay, David (1878~1945*英)
『アルクトゥールスへの旅』(1980)サンリオSF文庫 中村保男,中村正明訳 : '89/D
   A Voyage to Arcturus(1920)
 恒星アルクトゥールスの惑星が舞台という設定だが、SFというより幻想小説だったと思う。評判の高いものなので読んでみたのだが、なんだかよくわからずおもしろくなかったような。内容はすっかり忘れてしまったのだが、Amazonの感想によると「登場人物、地名、行動や思考などが全て意味のある隠喩になっている」とのことなのだが、少しでもわかったものがあったかどうか…。
 奇しくも同じ年に国書刊行会から荒俣宏訳でも出ている。読み比べてみると、どちらが読みやすいとかあったのだろうか。
(2010.10.18記)
エディスン,エリック・リュッカー Eddison, Eric Rücker (1882~1945*英)
『ウロボロス』(1986)創元推理文庫 山崎淳訳 : '89/B
   The Worm Ouroboros(1922)
 ファンタジーの古典的作品だが、密度が濃く波乱万丈で思いのほかおもしろく読めた。書かれた年代は古いのだが、その古色蒼然とした感じもまた味の一つになっている。最初に語り手のような人物が出て来るのだが、導入としてなじみやすくするためらしく、その後はもう出て来ない。また舞台が「水星」であると言われるのだが、天文学的な意味の「水星」とは思えないので、SFというより単なる別世界の英雄物語として読んでいいものである。終わり方がこの物語のタイトルを表しているのだが、読者としてはちょっとうーんこれでいいのかなあという感じだった。まあこういう終わり方もありか。
 月刊ペン社のファンタジー叢書だった妖精文庫の一冊として、『邪龍ウロボロス』の題で上巻のみ1979年に出た後、妖精文庫がなくなってしまったため中絶していたものが完結。形が変わったけれど読めて良かった。
(2010.11.1記)
メリット,エイブラム Merritt, Abraham (1884~1943*米)
『イシュタルの船』(1986)ハヤカワ文庫FT 荒俣宏訳 : '83/B
   The Ship of Ishtar(1924)
 バビロニアの神話と北欧のサガを合わせたようなヒロイック・ファンタジー。地の文にも「!」が多用されている大仰な感じの文体だが、それも似つかわしく思える現実と神話的世界を行き来する華麗な冒険物語。文字通り色彩的にも多彩で、銀-橙-黒-緋-青-桃-金と続く終盤の七層の館の描写が個人的にとてもツボだった。重要な神である叡智の神ナブの色が私の好きな青であることも好み。主人公の恋愛の行方やストーリーよりも、色鮮やかな館の描写の方が自分としては印象深い。
 名前の綴りを素直に読むと「エイブラハム」で、そう書いてある本もあるが、自分の読んだ本の表記に合わせた。たくさんはないが、ヴァージル・フィンレイの挿絵も美しい。
(2010.11.3記)
グリーン,アレクサンドル Грин,Александр (1880~1932*露)
『黄金の鎖』(1980)ハヤカワ文庫FT 深見弾訳 : '84/D
   Золотая Цепь(1925)
 幻想的な冒険物語だったと思うが、いわゆる「ファンタジー」ではなかったような。謎の館とか海賊とかいろいろ出てくるのだが、どういう話だったか実はほとんど忘れてしまった…。FT文庫の初期作品をいろいろまとめ読みしたときに読んだもの。
 革命後のソビエトでは不遇で、一時は「消された作家」だったらしい。
(2010.11.3記)
マーリーズ,ホープ Mirrlees, Hope (1887~1978*英)
『霧の都』(1980)ハヤカワ文庫FT 船木裕訳 : '86/C
   Lud-in-the-Mist(1926)
 解説にハイ・ファンタジーとあるが、舞台となる国自体は「妖精の国」と接しているとはいえ現実の普通の国っぽいので、エヴリデイ・マジック的な感じもする。割と地味な話だったと思うので、「古き良き」といったようなイメージがあるのだが記憶にはあまり残っていない…。
 「埋もれた名作」だったらしく作者についてもほとんどわからないようなのだが、この古風な味わいが好き、という人もいるようだ。
(2010.11.3記)

1930年代

ステープルドン,オラフ Stapledon, Olaf (1886~1950*英)
『オッド・ジョン』(1971)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '84/D
   Odd John(1934)
 「超人」テーマの古典SF。時期尚早として無用な争いを避けるために自分たちを排除する、という悲劇的な終わり方以外はなかったのかと残念だった記憶がある。人間が異質なものを嫌悪し排除しようとする非寛容さを、むしろ憐れんでいるような感じ。「旧人類」としてはそういう上から目線も神経を逆なでするんだけどね。
 ステープルドンは『最後にして最初の人類』(1930)という壮大な未来史テーマの作品で認められたというが、2004年になってようやく完訳が出た。古典SFに対する再評価を行うコードウェイナー・スミス再発見賞を2001年に受賞するなど、近年再評価がされているようだ。
(2010.11.7記)
ムーア,C.L. Moore, Catherine Lucile (1911~1987*米)
『大宇宙の魔女』(1971)ハヤカワ文庫SF 仁賀克雄訳 : '93/D
   Shambleau and other stories(1934)
 妖艶だが実は…という魔女的な異星生物が出てくる連作ノースウェスト・スミス・シリーズの第1集。今読むとそれほどエロティックでもないんだろうけど。スペースオペラの古典となっているようだが、あんまりいい印象が残っていない。
 ハインラインの「地球の緑の丘」は、このシリーズの一篇の中に出てくる歌の題名から取られているとか。歌詞はもちろんハインラインのものとは違うけど。
 当時のSF・ファンタジー界は作家が女性だと男性読者に受けないため、性別を伏せたイニシャル表記だったというのをどこかで読んだような。本名は「キャサリン・ルシール」。夫となったヘンリー・カットナーとの合作も多い。日本版は松本零士の挿画が印象的だったか。シリーズを一冊にまとめた版も出ている。

<ノースウェスト・スミス>シリーズ ハヤカワ文庫SF 仁賀克雄訳
 『異次元の女王』(1972)Julhi and other stories(1935)
 『暗黒界の妖精』(1973)Nymph of Darkness and other stories(1937)

(2010.11.7記)
ネイサン,ロバート Nathan, Robert (1894~1985*米)
『ジェニーの肖像』(1975)ハヤカワ文庫NV 井上一夫訳 : '85/C
   Portrait of Jennie(1939)
 「時間」テーマのタイム・トラベルSF、というかタイム・ファンタジー的な話。この手の話の古典的作品で、「センチメンタル~」「ロマンティック~」と言いたい作品。ファンタジーではあるが、せつない恋愛小説として一般受けする話だと思う。自分の中であまり評価が高くないのは雰囲気があまりにウェットな感じがするせいか?
 1947年というかなり早い時期に映画化され、私でも知っている俳優が出演している。映画もロマンス名作として有名らしい。凝った映像表現を使って、アカデミー賞の特殊効果賞(現在の視覚効果賞)を受賞している。

<その他の作品>
 『夢の国をゆく帆船』(1974)ハヤカワ文庫NV 矢野徹訳 : '85/C
   The Enchanted Voyage(1936)

(2011.1.16記)

1940年代

ディ・キャンプ,リヨン・スプレイグ de Camp, Lyon Sprague (1907~2000*米)
プラット,マレー・フレッチャー Pratt, Murray Fletcher (1897~1956*米)
『神々の角笛』(1981)ハヤカワ文庫FT 関口幸男訳 : '84/B
   The Roaring Trumpet(1940)
 現実世界から異世界へ行って冒険するタイプのユーモア・ファンタジー。北欧神話やスペンサーの『妖精女王』の世界などの「異世界」へ行くのに「論理方程式」を使うところにちょっとSFっぽい仕掛けがあるが、実態はまあファンタジーだろう。主人公は「ダメ男」とか書いてあって、楽しいドタバタ・コメディーだったと思う。
 作者の一人のディ・キャンプはのちにヒロイック・ファンタジー<コナン>シリーズも手がけるようになる人。日本版は天野嘉孝の表紙が美しい。

<ハロルド・シェイ>シリーズ ハヤカワ文庫FT 関口幸男訳
 『妖精郷の騎士』(1982) The Mathematics of Magic(1940) : '84/B
 『鋼鉄城の勇士』(1983) The Castle of Iron(1941) : '84/B
 『英雄たちの帰還』(1983) : '84/B
  「蛇の壁」Wall of Serpents(1953)
  「青くさい魔法使い」The Green Magician(1953)
<その他の作品>
 『妖精の王国』(1980)ハヤカワ文庫FT 浅羽莢子訳
   Land of Unreason(1942)

(2011.4.30記)
ヴァン・ヴォークト,アルフレッド・エルトン Van Vogt, Alfred Elton (1912~2000*加)
『スラン』(1977)ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳 : '81/A
   Slan(1946)
 「超人」テーマの名作SF。これは悲劇的に終わるのではなく希望的に終わるので良かった。ただSF・ファンタジー部門初の「A」評価とは自分でもびっくり(評価を決めたのはかなり前なので)。いや好きなんだけど。「超能力を持つ新人類が迫害される」というストーリーの典型的な物語。これが最初ではないのだろうけれど、この後の多くの作品に影響を与えたと思う。竹宮恵子の漫画『地球へ…』の主人公が「ジョミー」というのもこの作品から来ているのかな? SFではないけど、森脇真末味の漫画『緑茶夢(グリーンティードリーム)』に出てくるバンド名が「スラン」というのはこの話から採っている。
 『宇宙船ビーグル号の冒険』は、次々遭遇する「ベム」の脅威を、軽んじられていた「総合科学者」によって鮮やかに切り抜ける、というのが小気味よいのだが、後半は「ネクシャリズム」の万能感にちょっとご都合主義っぽい感じがしたかも。「専門化」されすぎてしまうとかえって全体的な見方ができなくなってしまって良くないよ、という「教訓」が含まれる。かつての表紙、球形の宇宙船の下にケアルの目が光る絵が印象的だった。1978年の創元推理文庫のSFと怪奇・冒険部門のみの目録についていた「全国のファンダムが選出した創元推理文庫のSFベスト10」では見事第1位になっている。
 「SF黄金時代」と言われる1940~1950年代に主に活躍した作家で、アシモフ・ハインライン・クラークと並び称されることもある。名前の発音は「ヴォート」が正しいらしいが、日本では「ヴォークト」「ヴォクト」と言い習わされる。

<その他の作品>
 『宇宙船ビーグル号の冒険』(1964)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '82/B
   The Voyage of the Space Beagle(1950)
 『非(ナル)Aの世界』(1966)創元推理文庫 中村保男訳
   The World of Null-A(1945)
 『非(ナル)Aの傀儡』(1966)創元推理文庫 沼沢洽治訳
   The Pawns of Null-A(1956)
 『イシャーの武器店』(1966)創元推理文庫 沼沢洽治訳
   The Weapon Shops of Isher(1951)
 『武器製造業者』(1967)創元推理文庫 沼沢洽治訳
   The Weapon Makers(1947)

(2011.5.1記)
ブラッドベリ,レイ Bradbury, Ray (Douglas) (1920~2012*米)
『火星年代記』(1976)ハヤカワ文庫NV 小笠原豊樹訳 : '81以前/A
   The Martian Chronicles(1946)
 短編連作によるオムニバス長編の叙情SF。「イラ」「月は今でも明かるいが」「優しく雨ぞ降りしきる」…独立した短編としてあちこちのアンソロジーや別の短編集に収録されているものもあるけれど、まとめて読んでいくと「年代記」として少しずつ進んでいく火星の歴史が見えてくる。せつない出会いやいろいろな争いの果てに、火星人や地球人がいなくなり、そして新しく「火星人」が生まれたところで幕を閉じる一連の物語。幻想的な雰囲気を湛えたSFの名作である。
 ブラッドベリは短編の名手だと思うが、幻想的な話を収録した『10月はたそがれの国』、SF作品集の『ウは宇宙船のウ』『スは宇宙(スペース)のス』などには、様々なタイプの作品が集められている。萩尾望都の作品集『ウは宇宙船のウ』にはそれらから選ばれた「ウは宇宙船のウ」「霧笛」「みずうみ」「集会」などが漫画化されていて、それで作品を知った人もいるだろう。タイトルが印象的なものも多く、「太陽の黄金(きん)の林檎」「よろこびの機械」など、別の短編集のタイトルになっているものもある。
 『たんぽぽのお酒』も短編連作によるオムニバス長編で、これはみずみずしい普通の青春小説…だと思っていたけど、ファンタジーだったっけ?
 風刺的な作品も多いが、長編『華氏451度』がその典型的な作品か。本が禁じられた世界、「Fireman」が「火を消す者=消防士」ではなく「火をつける者=焚書官」である世界。自ら「本」になるという抵抗を示す人々に、一冊の「本」が一人の「人」になってしまうと、同じ本を読んでも一人一人違うものであるはずの読書が少し限定されたものになってしまうのじゃないかなあと思ったものだが、とりあえずの緊急避難としては仕方ないか。
 幻想的な長編『何かが道をやってくる』はブラッドベリが好んだカーニバルもの。やや無気味な雰囲気が漂っているが、これもこの作家ならではの味の一つ。
 「SF」のレッテルがついて限定されてしまうことを嫌ったようだが、紛れもないSF・幻想文学作家である。「SFの詩人」と称される。ハヤカワ文庫はずっとブラッドベリはNVレーベルで出していたが、近頃の新版でついにSFレーベルに移動した。

<その他の作品>
 『華氏451度』(1975)ハヤカワ文庫NV 宇野利泰訳 : '84/B
   Fahrenheit 451(1953)
 『10月はたそがれの国』(1965)創元推理文庫 宇野利泰訳 : '81以前/B
   The October Country(1955)
 『ウは宇宙船のウ』(1968)創元推理文庫 大西尹明訳 : '81以前/B
   R is for Rocket(1962)
 『スは宇宙(スペース)のス』(1971)創元推理文庫 一之瀬直二訳 : '81以前/B
   S is for Space(1966)
 『何かが道をやってくる』(1964)創元推理文庫 大久保康雄訳 : '81以前/C
   Something Wicked This Way Go(1962)
 『たんぽぽのお酒』(1971)晶文社(文学のおくりもの1) 北山克彦訳 : '87/B
   Dandelion Wine(1957)
 『万華鏡』(1976)サンリオSF文庫 川本三郎訳 : '89/C
   The Vintage Bradbury(1965)

(2011.5.5記)
ボク,ハネス Bok, Hannes (1914~1964*米)
『金色の階段の彼方』(1982)ハヤカワ文庫FT 小宮卓訳 : '85/C
   Beyond the Golden Stair(1948)
 青いフラミンゴと金色の階段が出てくる幻想小説、ということしか覚えていない。というか、表紙とタイトルがそれだし。生前発表された短縮版『ブルーフラミンゴ』の完全版として死後発見され、リン・カーターらが刊行に尽力したようだ。
 作者はファンタジーのイラストレーターとして著名だったが、エイブラム・メリットに傾倒して小説も書いたらしい。ブラッドベリの友人でもあったという。
(2011.5.6記)
オーウェル,ジョージ Owell, George (1903~1950*米)
『1984年』(1972)ハヤカワ文庫NV 新庄哲男訳 : '87/D
   Nineteen Eighty-Four(1949)
 陰鬱なディストピア小説。悪夢の管理社会を描く「近未来SF」(書かれた年から見ると)だが、「SF」というより「社会風刺小説」として広く知られている。まぎれもなくこの作品はSFだと思うけど。
 よくできた物語だとは思うが、個人的にこういう暗い物語はあまり好みではないので評価は最低ランク。このような状況を打ち倒す話の方が好きだなあ。
 他に、動物による寓話小説の『動物農場』がある。

<その他の作品>
 『動物農場』(1972)角川文庫 高畠文夫訳
   Animal Farm(1949)

(2011.5.7記)

1950年代

スミス,エドワード・E. Smith, Edward Elmer (1890~1965*米)
『銀河パトロール隊』(1966)創元推理文庫 小西宏訳 : '80以前/B
   Galactic Patrol(1950)
 銀河を駆ける宇宙船や様々な姿の異星人などが出てくる、正統派のスペース・オペラの名作SF。「宇宙海賊ボスコーン」とか、超高速無慣性飛行を可能にした「バーゲンホルム機関」とか…。ドラム罐状の姿のリゲル人、トレゴンシーとか印象的だったなあ。前史やサイドストーリーとなる後半3作は未読だが、キニスン一家の4作はかなり以前に読んでいた。細かいところは忘れてしまったが、今となってはちょっと古いけど「古き良き」と感じられるSFらしいSFだったと思う。ただ、主人公の階級がどんどん上がっていくと思っていたら、子どもたちはもっと「上」に行っちゃってちょっと不満だったような。
 東京創元社の文庫では真鍋博の図案的な絵がカバー・口絵・挿絵に使われていたが、新訳になって生頼範義のリアルなカバー絵になった。どちらも味がある。新訳で改めて最初から未読分まで読んでみるべきか。
 E.E.スミスと言い習わされていたが、ミステリの女性作家にも同じイニシャルの人がおり、「E.E.“Doc”Smith」と言われたりもする。日本人を含め別人のスピンオフ作品やアニメもあった。

<レンズマン>シリーズ
 『グレーレンズマン』(1966)創元推理文庫 小西宏訳 : '80以前/B
   Gray Lensman(1951)
 『第二段階レンズマン』(1966)創元推理文庫 小西宏訳 : '80以前/B
   Second Stage Lensmen(1953)
 『レンズの子ら』(1967)創元推理文庫 小西宏訳 : '80以前/B
   Children of the Lens(1954)
 『ファースト・レンズマン』(1967)創元推理文庫 小西宏訳
   First Lensman(1950)
 『三惑星連合軍』(1968)創元推理文庫 小西宏訳
   Triplanetary(1948)
 『渦動破壊者』(1977)創元推理文庫 小隅黎訳
   The Vortex Blaster(1960)

(2011.5.8記)
スタージョン,シオドア Sturgeon, Theodore (1918~1985*米)
『夢見る宝石』(1979)ハヤカワ文庫SF 永井淳訳 : '84/B
   The Dreaming Jewels(1950)
 スタージョンなら「超人」テーマの名作『人間以上』をあげるべきではないかと思うが、このラインナップを作ったとき、自分としてはこの人にはこれ、と思った。正直内容はほとんど覚えていないのだが、話のイメージが好きだったのだと思う。この人の作品は何となく宝石のようなきらめきのあるイメージがあり、この作品も「幻想SF」とある。「美しい」イメージの作品を書く作家だが、ファンタジーの作家というよりSF作家として認識されている。好きな人には好まれる、玄人受けする作家だったようだ。
 『人間以上』は一人だと「普通以下」とみなされていた者たちが「集団」になると「人間以上」となる、という物語。完成度は『夢見る宝石』より高いと思うが、ストーリーがやや好きになれないタイプだったような。国際幻想文学賞を受賞している。
 「一角獣の泉」ほかの作品を収めた<異色作家短篇集>(早川書房)のスタージョンの巻のタイトルが『一角獣・多角獣』というのもきれいで格好良かったなあ。改訂版では落ちていたこの巻が、近年出直した版では復活していたのは嬉しい。
 「どんなものも、その90%はクズである」という「スタージョンの法則」(「黙示」といのが正確で、「法則」というと別のものがあるらしいが)は有名。SFが攻撃されたときに言ったもののようだが、「文学作品」限定かと思っていた。また、1970年代の「ジェイムズ・ティプトリー・Jr.を例外とすれば、最近のSF作家でこれはと思うのは、女性作家ばかりだ」というものは、実はそのティプトリーも男性ペンネームを使った女性だったというオチがつくことでSFの歴史的発言の一つになっている。

<その他の作品>
 『人間以上』(1978)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '84/B
   More Than Human(1953)

(2011.12.15記)
アシモフ,アイザック Asimov, Isaac (1920~1992*米)
『わたしはロボット』(1976)創元推理文庫 伊藤哲訳 : '82以前/A
   I, Robot(1950)
 「ロボット工学三原則」を作り出した一連のロボットものの最初の作品集。多分最初に読んだのは、岩崎書店あたりの児童向けのSFシリーズに抜粋してあったものだったと思う。訳題は早川版での『われはロボット』の方が有名か。「堂々めぐり」「嘘つき!」「迷子の小さなロボット」の話などが記憶に残っている。「迷子の小さなロボット」ほかをもとに近年作られた映画「アイ,ロボット」はかなり味わいの違うものだったが、それはそれでなかなかおもしろかった。強面のおばさんのイメージなスーザン・カルヴィンが若い美人なのは映像的に仕方ないか。
 ロボットものの作品は他の短編集にもあるが、その中ではやはり、『聖者の行進』収録の人間になろうとしたロボットの物語「バイセンテニアル・マン」が印象的。「彼」は人間として認められたけど、それでも最期の言葉は「リトル・ミス」…。ロバート・シルヴァーバーグによる長編化作品『アンドリューNDR』で映画化されたが、原作を踏襲した結末が映画では変えてある。
 『鋼鉄都市』に始まるロボットもの長編は、初期は割と純粋にSFミステリ。2作目の『裸の太陽』は読もうとしたときまだ文庫化されていなくて、絶版だった銀背を持っている知人から借りて読んだっけ。ベイリとダニールの「友情」がいい。後期の作品は<銀河帝国興亡史>とリンクしていくが…。
 <銀河帝国興亡史>は早川版のシリーズ名だが、書名そのものは『ファウンデーション』『ファウンデーション対帝国』『第二ファウンデーション』。ちなみに創元版の帯には「風雲編」「怒濤編」「回天編」という副題?がついていた。短編連作だった初期3巻と、他作品とリンクさせるようになった後期では当然ながらかなり感じが違う。「市長」のサルヴァー・ハーディンは格好いい男だったなあ。アーケイディアちゃんの「録音転写機」、今もうあるんじゃないだろうか。ミュールと第二ファウンデーションの超能力合戦みたいになったのはちょっとアレだったが。でもアシモフが、最終的に全体主義みたいな「ゲイア」(ハードカバー時代の訳語)を選択させるとは意外だった。欠点があっても、個性があってこその人間じゃないのか? ファウンデーションの意味がなくなっちゃうし、ラストもなんだかなあ。ダニールが「神」のようになっていて、彼は本質的にはロボットだから決して間違わないんだけど、人間の少年の体を手に入れたりするのはいいの? でもダニールが気の毒になってくる…人類背負ってて大変そうで。
 ロボットものの設定を使って若手作家が連作する<電脳惑星>というシリーズが角川文庫<カドカワFシリーズ>というレーベルで一時出たけど、邦訳は4冊で中絶。
 アシモフは語りが楽しく、短編集やアンソロジー<ヒューゴー・ウィナーズ>の各編解説とかがとてもおもしろい。合間の作品も読まないといけないんだけど。SFでない純粋なミステリ連作『黒後家蜘蛛の会』も好き(2巻に収録の「殺しの噂」はトールキンの『指輪物語』ネタ)。実はこの人の作品の中で一番おもしろいと思ったのは「自伝」なのだった。邦訳はハードカバーで4冊という分厚いものだが、全然読むのに苦労しなかった。「何がいくらで売れた」ということばかり書いてある、と揶揄していた評もあったようだが、それさえもおもしろいのだ。より楽しむためにはアシモフの作品を大体読んでいるとベター。最初の妻との離婚話がやや唐突に出てくるが、他人の悪口はあまり書きたくないのだろうアシモフの性格がうかがえる。折々のエピソードは楽しいものが多く、確か友人のディ・キャンプだったと思うが、「自分の失敗もみんな書いているんだ」とアシモフが言うのへ、「だからこんなに長くなるんだね」と返してくれる話とか。「友達とはいいものだ!」
 ハインライン・クラークとともにSF御三家の一人。私がSFを読もう!と思うより前から読んでいた一人。執筆は科学解説・ノンフィクションの方が多いかもしれないけれど(それもおもしろいけれど)、この人の肩書は第一に「SF作家」だと思っている。姓の読みは「アジモフ」の方が正しいらしく、そう表記してある本もあるが、慣用としてここでは「アシモフ」を使用。ポール・フレンチ名義のジュブナイル<ラッキー・スター>シリーズという作品もある(未読、邦訳のない巻もあり)。ウェストレイクの『ニューヨーク編集者物語』に実名で出てきて、次々と原稿を送りつけてくるというエピソードに笑う。

<銀河帝国興亡史>
 『銀河帝国の興亡 1』(1968)創元推理文庫 厚木淳訳 : '80以前/B
   Foundation(1951)
 『銀河帝国の興亡 2』(1969)創元推理文庫 厚木淳訳 : '80以前/B
   Foundation and Empire(1952)
 『銀河帝国の興亡 3』(1970)創元推理文庫 厚木淳訳 : '80以前/B
   The Second Foundation(1953)
 『ファウンデーションの彼方へ』(1984)早川書房 岡部宏之訳 : '86/C
   Foundation's Edge(1982)
 『ファウンデーションと地球』(1988)早川書房 岡部宏之訳 : '89/C
   Foundation and Earth(1986)
 『ファウンデーションへの序曲』(1990)早川書房 岡部宏之訳 : '92/B
   Prelude to Foundation(1988)
 『ファウンデーションの誕生』(1995)早川書房 岡部宏之訳
   Forward the Foundation and(1993)
<ロボット・シリーズ(長編)>
 『鋼鉄都市』(1979)ハヤカワ文庫SF 福島正実訳 : '83/B
   The Cave of Steel(1954)
 『裸の太陽』(1965)ハヤカワSFシリーズ 常盤新平訳 : '83/B
   The Naked Sun(1957)
 『夜明けのロボット』(1985)早川書房 小尾芙佐訳 : '86/B
   The Robots of Dawn(1983)
 『ロボットと帝国』(1988)早川書房 小尾芙佐訳 : '88/B
   Robots and Empire(1985)
<その他の作品(長編)>
 『宇宙の小石』(1972)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '80以前/B
   The Pebble in the Sky(1950)
 『暗黒星雲のかなたに』(1964)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '80以前/C
   The Stars Like Dust(1951)
 『宇宙気流』(1977)ハヤカワ文庫SF 平井イサク訳 : '80以前/B
   The Currents of Space(1952)
 『永遠の終わり』(1977)ハヤカワ文庫SF 深町真理子訳 : '84/B
   The End of Eternity(1955)
 『神々自身』(1980)早川書房 小尾芙佐訳 : '83/B
   The Gods Themselves(1972)
 『ミクロの決死圏』(1971)ハヤカワ文庫SF 高橋泰邦訳 : '86/B
   Fantastic Voyage(1966)
<その他の作品(中短編集)>
 『ロボットの時代』(1984)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐訳 : '85/B
   The Rest of Robots(1964)
 『聖者の行進』(1979)創元推理文庫 池央耿訳 : '83/B
   The Bicentenial Man and other stories(1976)
 『停滞空間』(1979)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫他訳 : '83/B
   Nine Tomorrow(1959)
 『火星人の方法』(1982)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐,浅倉久志訳 : '83/B
   The Martian Way(1955)
 『木星買います』(1985)ハヤカワ文庫SF 山高昭訳 : '86/B
   Buy Jupiter and other stories(1975)
 『変化の風』(1985)創元推理文庫 冬川亘訳 : '87/B
   The Winds of Change and other stories(1983)
<その他の作品(ミステリ)>
 『黒後家蜘蛛の会 1』(1976)創元推理文庫 池央耿訳 : '82/A
   Tales of the Black Widowers(1974)
 『黒後家蜘蛛の会 2』(1978)創元推理文庫 池央耿訳 : '82/A
   More Tales of the Black Widowers(1976)
 『黒後家蜘蛛の会 3』(1981)創元推理文庫 池央耿訳 : '82/A
   Casebook of the Black Widowers(1980)
 『黒後家蜘蛛の会 4』(1985)創元推理文庫 池央耿訳 : '85/A
   Banquets of the Black Widowers(1984)
 『黒後家蜘蛛の会 5』(1990)創元推理文庫 池央耿訳 : '90/A
   Puzzles of the Black Widowers(1990)
<アシモフの科学エッセイ>
 『空想自然科学入門』(1978)ハヤカワ文庫NF 小尾信彌, 山高昭訳 : '93/B
   View from a Height(1963)
 『地球から宇宙へ』(1978)ハヤカワ文庫NF 山高昭訳 : '93/B
   From Earth to Heaven(1963)
<自伝>
 『アシモフ自伝Ⅰ―思い出はなおも若く―1920-1954』上・下(1983)早川書房 山高昭訳 : '85/A
   In Memory Yet Green(1979)
 『アシモフ自伝Ⅱ―喜びは今も胸に―1954-1978』上・下(1985)早川書房 山高昭訳 : '85/A
   In Joy Still Felt(1980)

(2014.5.17記)
ポール,フレデリック Pohl, Frederik (1919~2013*米)
コーンブルース,シリル・M. Kornbluth, Cyril Michael (1923~1958*米)
『宇宙商人』(1984)ハヤカワ文庫SF 加島祥造訳 : '86/C
   The Space Merchants(1952,53)
 ポールとコーンブルースの合作で、巨大広告代理店に支配されている未来世界を描いていて、社会風刺SFの傑作とされるもの。その評判ときれいな日本版のカバー絵が気に入って読んでみたが、正直どんな話だったか全然覚えてないなあ…。このときディストピア小説として書かれたものが現在では実現してしまったという感想も見かけたが。
 ともに10代のころにデビューしたSF作家で、第二次大戦前から合作を手がけ、長編のほか「クエーカー砲」などの短編も多数執筆。ポールは編集者としても活動し、ポールが編集する雑誌にコーンブルースが短編を寄稿したり二人の合作が掲載されたりもしたようだ。
(2019.7.14記)
ベスター,アルフレッド Bester, Alfred (1913~1987*米)
『分解された男』(1965)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '87/B
   The Demolished Man(1953)
 テレパシー能力者などのエスパーが存在する未来社会で、商売仇を殺した男とそれを追うエスパーの警察官との駆け引きを描くSF。華麗な文体や特殊なタイポグラフィで注目を集め、殺人者でアクの強い主人公の魅力や緊張感のある展開で人気作となり、この処女長編で第1回のヒューゴー賞を受賞した。
 第2長編『虎よ、虎よ!』は「ジョウント効果」というテレポーテーション能力が開発された社会での一人の男の復讐譚。前作以上の変則的なタイポグラフィを用いた「ワイドスクリーン・バロック」の代表作とされる作品。タイトルはウィリアム・ブレイクの詩「虎」の冒頭から。講談社版での訳題『わが赴くは星の群』は原作雑誌連載時のタイトル“The Stars My Destination”からだが、こっちの方が格好いいか?
 どちらの作品も特殊能力者の出てくる“悪漢小説”的な話で、文体を含め派手な感じの物語。作中の文字配りは原作の形に合わせているのだろうけど、活字の字体を変えたり画像的な描き文字で表現したりするなど、訳すのが難しいのはもちろん、製版も大変だったろうな…。

<その他の作品>
 『虎よ、虎よ!』(1978)ハヤカワ文庫SF 中田耕治訳 : '94/B
   Tiger ! Tiger !(1934)
 『コンピュータ・コネクション』(1980)サンリオSF文庫 野口幸男訳 : '89/C
   Extro(1974,75)

(2019.7.16記)
シラス,ウィルマー・H. Shiras, Wilmer House (1908~1990*米)
『アトムの子ら』(1981)ハヤカワ文庫SF 小笠原豊樹訳 : '82/B
   Children of Atom(1953)
 「超人」テーマの名作とされているが、現在では忘れられてしまっているかなあ。ローダンシリーズと同じく、原子力がミュータントの原因になっている(こちらは原爆被爆からでなく原子力研究所の事故からだが)。衝突が回避されてほっとする終わり方だが、ミュータントたちに思い入れして読んでいるとちょっと残念な気もする。クラークの『幼年期の終わり』ほど人類と隔たったものになったわけではないけれど、そのうちいずれ「人間」をやめようとする者も出るのでは? 自分と同じような感覚を持ったものと一緒にいる方が楽だしね。まあそれは彼らが大人になったころにもう一度考えるべきことなのかも。異質なものを排斥しようとする人間の不寛容さが普遍的な問題か。
 他の作品は見ないなあと思っていたら、作者シラスのフィクションの作品はこれ1作のようだ。女性作家だが、解説に「女性らしいやさしさ」といった表現が何回か出てくるのが今見るとちょっと気になる。
(2019.7.15記)
コーンブルース,シリル・M. Kornbluth, Cyril Michael (1923~1958*米)
『シンディック』(1985)サンリオSF文庫 千葉薫訳 : '88/C
   The Syndic(1953)
 アメリカが巨体シンジケートに支配されている未来を描く社会風刺SF。名作として知られるフレデリック・ポールとの合作『宇宙商人』の片割れの代表作。貴重なサンリオSF文庫だし、ということで読んだのだと思うが、これも内容覚えてないなあ。
 コーンブルースは10代のころにデビューした早熟な作家だったが、大雪の日に雪かきをしていて心臓発作を起こし、35歳という若さで亡くなった。
(2019.7.15記)
クレメント,ハル Clement, Hal (1922~2003*米)
『重力への挑戦』(1965)創元推理文庫 井上勇訳 : '96/B
   Mission of Gravity(1954)
 液体メタンの海と地球の700倍の重力を持つ惑星メスクリンで離陸不能になったロケットを回収するため、地球人が原住生命体と取引するという「異生物」テーマのハードSF。本の説明にはメスクリン人の姿は「シャクトリムシ」とあるが、ハヤカワ文庫版(訳題は『重力の使命』)のカバー絵はどっちかというとムカデだなあ。異星の環境や異生物の生態を科学的にリアルに描いている話だったと思うんだけど、具体的には覚えてない。そもそも本の紹介にある「なぜ彼らはその危険な仕事を引き受けたのか?」も…。「B」評価になっているし『20億の針』よりこっちを取り上げてるので、つまらなかったわけではなかったと思うのだが。
 『20億の針』は、20億人の人間の中から探偵が犯人を見つけ出そうとするのを、わらの中から一本の針を探す困難になぞらえたタイトルのSFミステリ。クレメントは一貫して「異生物」テーマのSFを書いていたとのこと、この話も探偵も犯人も地球に不時着して人間に寄生する異生物であるのがミソ。続編に『一千億の針』があるが、なんと30年近く経ってからの刊行なのは驚き。

<その他の作品>
 『20億の針』(1963)創元推理文庫 井上勇訳 : '86/B
   Needle(1950)
 『一千億の針』(1979)創元推理文庫 小隅黎訳
   Through the Eye of a Needle(1978)

(2019.7.17記)
ゴールディング,ウィリアム Golding, William (1911~1993*英)
『蠅の王』(1978)集英社文庫 平井正穂訳 : '84/D
   Lord of the Flies(1954)
 第三次世界大戦?が起こり、疎開地へ向かう途中で飛行機が墜落して子どもたちだけで孤島に取り残されるという設定の近未来小説なのでSFと言えなくもないが、超技術とかは出てこない、むしろリアリズム系のサバイバル小説。孤島に取り残された少年たちのサバイバルがうまくいく『十五少年漂流記』などに対し、殺伐とした悲劇的な展開となる、言ってみればディストピア小説。後味が大変悪く、それは小説としてよくできているからなのだろうが、楽しい物語ではないので個人的には好きではない。
 ブッカー賞やノーベル文学賞を受賞したゴールディングの代表作。
(2019.7.13記)
ブラウン,フレドリック Brown, Fredric (1906~1972*米)
『天使と宇宙船』(1965)創元推理文庫 小西宏訳 : '83/B
   Angels and Spaceships(1954)
 SF短編・ショートショートの名手ブラウンの作品集。読んだ作品集は他に『スポンサーから一言』『未来世から来た男』。坂田靖子・橋本多佳子・波津彬子の3人がブラウンの作品を漫画化したことがあって(『フレドリック・ブラウンは二度死ぬ』(朝日ソノラマ 1983)という単行本になった)、こっちの「デュオ」誌掲載を先に読んだんだったかな。坂田靖子が「狂気恐怖症」「プラセット」、橋本多佳子が「帽子の手品」「大失敗」、波津彬子が「黒猫の謎」「ミミズ天使」。大胆な改変をした橋本、なるべくそのままに描く波津、別の作品の一部を取り込む坂田、と原作の料理の仕方は三者三様。単行本には制作経緯などを語った鼎談のほか、書き下ろしの3人の合作の「血」も。漫画でも原作でも印象的だったのは「ミミズ天使」だが、こういうネタは訳すのも絵にするのも大変だったろうなー。「プラセット」もね(原作本ではともに『天使と宇宙船』所収)。「ミミズ天使」、翻訳で普通に読んでいたらからくりはまずわからないけど、原作を読んでわかった人はいたのだろうか。ブラウンの短編はユーモアのあるのも多いがホラーの味わいのものも結構ある。そういえば坂田がわざわざ伏字使ったりタイトルから省いた語が含まれる題の短編集が最近出たのだが、大丈夫なのか?
 SF長編は少ないが、文字通り「緑の小さな火星人」が出てくる風刺SF『火星人ゴーホーム』はコメディタッチでおもしろかった。ウェルズの『宇宙戦争』をふまえた作り。
 マック・レナルズと共編のアンソロジー『SFカーニバル』にはSFの各種テーマが入っている入門的作品集。両編者もそれぞれ短編を寄稿。
 ミステリ作家としては探偵エド・ハンターを主人公としたシリーズなどがあり、ブラウンの処女長編となるこのシリーズの第1作『シカゴ・ブルース』(ちなみにこの作品では主人公はまだ探偵ではない)でMWA最優秀処女長編賞を受賞した。かなり地味な話だが、少年の自立を扱った青春小説としても味わい深い。

<その他の作品>
 『スポンサーから一言』(1966)創元推理文庫 中村保夫訳 : '83/B
   Honeymoon in Hell(1958)
 『未来世から来た男』(1964)創元推理文庫 小西宏訳 : '83/B
   Nightmares and Greezenstacks(1953,57)
 『火星人ゴーホーム』(1976)ハヤカワ文庫SF 稲葉明雄訳 : '98/B
   Martians, Go Home !(1955)
 『シカゴ・ブルース』(1971)創元推理文庫 青田勝訳 : '89/C
   The Fabulous Clipjoint(1947)
 『SFカーニバル』(1964)創元推理文庫 小西宏訳 : '87/B
   Science-Fiction Carnival(1953,57)※マック・レナルズと共編のアンソロジー

(2019.7.18記)

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