『トールキン─『指輪物語』を創った男』について


2002.1.27 高橋誠

 原書房から出た『トールキン─『指輪物語』を創った男』について気になることを纏めてみました。書誌事項は次の通りです。

『ホビットの冒険』の粗筋の紹介

しのびのもの(99ページ)

とかの有名な「押入」でなく岩波版にあわせたのかと思うと、

「さびしい山」(100ページ)

と原書房版に合わせたりしています。

「避け谷」(100ページ)

とは単なる誤植でしょうか?

オーク鬼と同じくらい有名なゴブリン(101ページ)

 ゴブリンはオークの「英語訳」ということになっているのですが。

ゴラム(101ページ)

 「ゴクリ」は原書房版が岩波版にあわせている珍しい例なのですが。

 五軍のいくさについて

邪悪なコウモリ(102ページ)

が特に強調されています。確かに出てはくるのですが。

『指輪物語』の粗筋紹介

ガンダルフはフロドに指輪をもたせ、あと三人のホビット──メリー、ピピン、サム──とともにホビット庄をたたせる。(127ページ)

 ガンダルフはサム以外に秘密を漏らさないようにいっています。

(ボロミアでなく)ボロミルは「ミナス・ティリスの城主」(128ページ)

だそうです。

モリアの鉱山(128ページ)

 まあ、炭鉱呼ばわりするよりはましですが、「坑道」としてほしいです。

一行の離散の後で、ボロミア(ボロミルと書いてあります)がフロドを襲撃したそうです。(129ページ)

 もちろん、順序は逆です。また、

ボロミルがピピンとメリーを救った。(129ページ)

そうです。オークたちは最初からさらうつもりだったので、救ったとはいえないのではないでしょうか。せいぜいさらわれるのを遅らせたくらい。

角笛谷(129ページ)

 この地名に見覚えはありません。角笛城のあるのはヘルム峡谷ではないのでしょうか?

リングレイスとよばれる羽根のはえた生きもの(130ページ)

 これは影山氏が紹介済みですが、ringwraithは『指輪物語』では「指輪の幽鬼」と訳されています。確かに実体はないのですが、このような記述は憶えがありません。後半出てくる羽根の生えた生きものに乗った場面を誤解しているようです。

海をこえてきたアラゴルンの手兵(130ページ)

 海を回ってきたくらいでしょうね。

若いホビットの(130ページ)

というのがフロドこと。33歳で成人なら50歳くらいは「若い」でもいいでしょうか。

おひとよしのロソ(131ページ)

 この形容も覚えがないのですが・・・

サムはあたかも幻を見るように、緑あふれるよろこびの地を目にした。(132ページ)

 このサムはフロドのあやまりです。

三部作(135ページ)

 三部作でなくて一つの物語というのをここでいっても無駄でしよう。

その他

ナマリー(152ページ)

 これも影山氏が紹介済みですが、エルフ語の翻字規則なんていう以前に、eのウムラウト記号で分かりそうなものです。

高遠な高地世界(173ページ)

 かの有名な「西の高地のエルフ」に合わせたのかしら。

誰の間違いか?

 原書を読んでいる友人によると、原書にもいくつか間違いがあるそうです。訳本の間違いも原書からの遺伝と考えられるものもあります。どちらにせよ、出版社も翻訳者も気づかなかったわけです。結果として間違いは間違いですし、どこで間違ったかまでは解析していません。

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