工事の実施

  1. 工事の開始にあたって

     工事は近所の富岡八幡宮で行った安全祈願祭から始まりました。並行して現場事務所、工事関係掲示板の設置を行い、足場架設のための自転車移動、専用庭の植木等の移動を居住者の方にお願いしました。

     毎週土曜日の夕方に、三者(工事請負会社、工事監理会社、修繕委員会)の定期会合を開き、そこで工事の進み具合のチェックと工事を進める上での問題点確認及び解決策の検討を行うことにしました。

  2. 工事実施上の問題点

     実際に工事が始まると様々な問題点が発生しました。そのいくつかを以下に列記しますが、経験不足のために起きた問題の他に日常の管理が不十分であったために起きた問題もあり、管理組合のあり方について考えさせられました。

    自転車仮置き場
     工事準備を始めてすぐ問題が発生しました。当初、自転車置き場は半分ほど使えて、一部を移動すればよいと考えていましたが、実際には全面的に移動する必要があり、自転車仮置き場のスペースが足りない事が分かったのです。緊急に理事会で検討した結果、二階建ての仮置き場を作るなどのアイデアが出ましたが、何とかスペースを探して収納することで乗り切りました。玄関の通路にも自転車が溢れ、通行にも不便な状態で、居住者の方にも大変迷惑をかけました。もう少し前に分かっていれば、自転車の整理も出来たのですが。(私たちのマンションは自転車を毎年登録する制度を導入していたので、今年の分を早めに実施しておけば良かった。自転車共有制度の導入で自転車の総数を減らしておくことも可能だった。)

    機械式駐車場
     次に発覚した問題は、駐車場に関してです。敷地内の駐車場は一部が二段式の機械駐車場になっているが、その施設が予想以上に痛んでいることが分かったのです。常日頃塗装をするなど手を入れていれば、こんなにひどくはならなかったと予測され、メンテナンス会社、管理組合、利用者、管理会社の管理体制に問題があったようだ。

     調べてみると油圧で上下する方式は、メンテナンス費用が高価で、最近はあまり使われなくなっているようです。費用対効果の点からも、この際全面的に入れ替える案も出されましたが、検討した結果、傷みのひどいパレット部分のみ全数交換しピット内の排水を改善することになりました。費用は工事の予備費だけでは賄えないので、新たに積立金を取り崩す総会決議(工事期間内の定期総会)をしました。管理会社まかせのメンテナンス契約内容チェックと日常の管理の大切さが身にしみました。

    ベランダ工事
     工事に必要なベランダの整理に関しても問題が発生しました。ベランダにタイルを敷き詰めている人があり、撤去費用が高価で個人負担できないと撤去を拒んだのです。本来、ベランダは共有部分でありタイルを敷き詰める等の無断改変工事は禁止されています。しかし現実に発生してしまった場合の処理に苦労しました。このような問題は、日頃から広報等で十分に周知しておく必要があります。

     各家庭のベランダにはエアコンの室外機や植木類があり、防水工事のためには全面的に移動しなければなりません。植木類は部屋の中に収納するには量が多いため、敷地内に一時置き場の台を作りました。そこへ各家庭で植木を運んでもらい、水やり等の管理と撤収も各自の責任で行いました。しかし結果的には枯れてしまった植木が多数発生したこと、最後に撤収されずに残ってしまった植木類も多く出て、あまり良い方法ではなかったようです。しかし、他によい案は出ませんでした。今後の課題です。

     工事終了後のアンケートで一番不満の多かったのが、ベランダ工事に関することでした。塗装のために窓や換気口やエアコン室外機に養生(ビニールで覆う事)をしたために、室内が蒸し暑く不快な生活を強いられたからです。各家庭の工事期間は二週間ほどでしたが、生活者にとってはつらさの一番の山場です。いつ洗濯ができるのか、いつビニールが取れるのか、いつエアコンが使えるのかと1日千秋の思いでした。玄関周りの工事も含め、生活に直接関係する工事は期間を短縮する方法、きめ細かい連絡など施工側の工夫を是非お願いしたいところです。私たちがお願いした業者の方も、その辺は十分に理解していたのですが、現在良い解決策はないようです。業界全体として新しい技術開発(工事法、工程管理システム)を出来ないものでしょうか。

    ダクト清掃
     台所や風呂場の換気扇ダクトの清掃では予想外の問題が発生しました。今回の大規模修繕は専有住居の外部を中心に実施しましたが、台所の換気扇排気口からの汚れが外壁の汚れを加速する恐れがあったので、唯一の例外として専有住居内部の天井裏排気ダクトの清掃も一斉に実施しました。その過程で、吸気ファンに吸気ダクトが接続されていなかったり、接続が間違っていて逆流したりしている箇所が発見されました。接続部分がテープでしっかり固定されていないため振動音が大きいものもありました。天井裏のダクトは普段は見ることもないので、居住者の方もおかしいなと思いながらそのままにしてある場合が多いようです。

     点検口から簡単に直せる場合は問題ないのですが、場所によっては天井の一部を切り取る工事が必要になり費用負担が問題になりました。明らかに新築時施工の欠陥なので、費用負担は新築施工業者と折衝しました。この件に関しては施工業者も非を認めて、工事はその業者が行いました。

     同様な問題は今回は対象にしなかった床下の排水管や電気工事など、通常の生活では気付かない部分にも発生する可能性があります。大規模修繕工事はこの様な新築時の瑕疵を発見する可能性が高く、保証期間の考え方に大きな問題提起をしていると思います。その意味で大規模修繕工事は、新築を担当した業者とは別の業者に依頼したり、改修設計はデベロッパーに依存しない設計事務所などに頼むのも意味があると思います。  

    工事予定の広報
     修繕工事の特徴は、なんと言っても生活をしながら工事をしなければならない事です。生活者の実感としては、まるで工事現場に住んでいるようでした。そのような状況で住民が知りたい情報は、自分の家に工事が来るのは今日なのか、明日なのかということです。一方、工事をする側では数日の期間内に何軒かをまとめて処理したい事情があります。この数日のずれがいろいろな誤解を生み、住民の不満が現場事務所に寄せられることになります。
     また、奥さん同士の情報網で、工事の進行より情報が先行して、私の家はきちんとした工事がされていないなどの不満がありました。工事の内容は細分化されており手順に従って実施されるのですが、生活している側からはそれが良く見えません。工事業者には広報はなるべく細かくしてもらうように頼みましたが、限界があります。工事全体が見えるように分かり易く表現し広報する点に関しては、良いアイデアはありませんでした。工程管理と住民への広報をきめ細かくリンクできるようなソフト開発が必要ではないかと感じました。

  3. 工事終了後の居住者アンケート結果

    三回にわたって広報誌に添付したアンケート用紙に多くの回答を頂きました。(回答総数 145) 以下にその結果を広報した内容をそのまま記します。

    (1)工事の範囲と費用について満足ですか
      a. 満足              60
      b. 普通              71
      c. 不満足              6
      d. 分からない            8

    (2)修繕委員会の方針が理解できましたか
      a. 広報等を通じてよく理解できた  101
      b. 普通               40
      c. 理解できなかった         3
      d. 他                1

    (3)工事の日程、段取りは伝わりましたか
      a. 掲示板やビラで良く理解できた  82
      b. 普通              53
      c. 理解できなかった         9
      d. 他                1

    (4)工事は順調に進みましたか
      a. 満足              43
      b. 普通              76
      c. 不満足             21
      d. その他              5

     アンケートに記された居住者のコメントや修繕委員の感じた反省点などを踏まえて、次回に向けての課題をまとめました。

    (1)工事内容の広報のやり方
    アンケートにも多くの指摘がありました。多かったのは、自分の家に関係する工事がいつ行われるのかをもっと詳しく知りたいという事です。工事施工側からは段取りの関係で数日から一週間程度の範囲で、各棟の工事内容を広報しますが、住民側からは一日単位の情報が知りたい希望があります。特に外出が制限されたり、洗濯物が干せない場合などです。双方の事情のずれが問題となりました。
    修繕委員会の中でも討議されましたが、戸数が多くとても現在以上の詳しい情報を出すのは難しい状態でした。次回までには、工程管理のコンピュータ化も更に進むでしょうから、よりきめ細かい広報ができると期待したいところです。 その他、専門用語を使わない等の工夫も必要です。

    (2)日常の管理
    工事金額が予定より大きく変更になったのは、詳細に調査すると予想以上に痛んでいることが分かった箇所です。機械式駐車場が金額的にも内容的にも現状と認識のずれが大きかった。毎年の定期検査と、適切なメンテナンスが施されていれば、今回ほどの追加金額は必要なかったと思われます。メンテナンス会社、利用者、理事会、管理会社の今後の課題です。
    そのほかにも、毎年の小修繕でこまめに直していくべき項目も見つかりました。

    (3)修繕積立金
    アンケートにも指摘がありましたが、大きな混乱もなく工事が行えたことは、一時金の負担がなかった事が大きいと思います。その意味で5〜6年後に再度修繕積立金の見直しを行うなど、次回の工事も一時金の徴収なしで行えるように今後の理事会に配慮をお願いしたい。
    次回の工事は外壁の補修以外に、給排水関係等にも本格的な補修が必要となりますので、積立金は十分用意する必要があります。

    (4)オプション工事の金額
    ベランダの防水工事のために、エアコンの室外機や人工芝の撤去が必要でしたが、その金額にも誤解がありました。居住者側からは大した作業をしていないように見えても、防水をするために接着剤を完全に剥がしたり、室外機を移動して元に戻すためにテープを巻き直したり等手間がかかっているのです。次回には居住者側に不満が残らないような工事内容と価格の情報が必要と思われます。

  4. 竣工式

     1998年8月末ですべての工事が終了し、9月5日に竣工式を行いました。竣工式は管理組合が施工者と監理者を招待し、工事関係図書の引き渡しと工事の完成に感謝し感謝状を贈るものです。返礼として施工者から敷地内に記念木を送ることが伝えられました。
     これで8ヶ月の工期と延べ12,000人以上の作業者と5億円弱の費用を投入した修繕工事が、一件の事故もなく終了できました。式でのあいさつで多分にお世辞でしょうが、「これだけの大工事がこれほどスムーズに進行できたのは、居住者の方々の忍耐とご協力のおかげです。非常に希な成功ケースと思います。」との言葉をいただき、4年間の苦労が報われた気がしました。

     その後引き続いて、敷地内の広場で居住者参加の「竣工祭」を催しました。新装なった建物のもとに、やきそば、わた飴、たこ焼きなどの屋台を出しましたので、多くの子供と居住者が参加し300食用意した食べ物はあっという間になくなりました。管理組合の理事、修繕委員の方々も大役をなし終えた為でしょう本当に楽しんでいました。