工事中にシンナーアレルギーが発生

○市のNさんの事例紹介


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 札幌で大規模修繕のHPを公開している寺地さんから、緊急のメイルが入りました。○市のNさんの所で工事中に塗料に含まれているシンナーによるアレルギー問題が発生したとの内容です。

 さっそく全国から有益な情報が寄せられたそうです。問題の内容も重要ですし、インターネットを使った対応も素早く、今後の参考になると思い一部を公開させていただきました。Nさん、寺地さん、公開の承諾を頂きありがとうございます。
 例によりまして、固有名詞は伏せてあります。また問題の内容が深刻ですから、関係する方への配慮から市名も伏せています。もちろん、詳細な内容は寺地さんがHPで準備中ですので、それが公開されましたらリンクする予定です。

 問題が発生した場合は、素早く話し合うのが基本です。しかし、この様な事例があるのですから、今後工事を予定しているところは、水性塗料の採用を主に考えておくこと、補償問題のために工事保険の内容を事前に確認しておくことをお勧めします。

 以下に、寺地さんの ”どなたか、お知恵を貸して下さい”メイルと、Nさんからの結果報告を掲載してあります。途中経過はプライバシー等の問題もあるため、公開の主旨ではないので省略しました。


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マンション大規模修繕ホームページの寺地です。

ブラックカーボンコピーで、これまでにメールをくださった方全員に、このメールを送ります。

じつは、本日、以下のような、相談メールが届きました。わたしの返信とともに、ご紹介します。 どなたか、こういう事例をご存じの方がいらっしゃったら、どんなことでも、教えてください。

また、これからマンション改修工事をされる方、現在改修工事中の方、 こういうことも、起こりうるということで、参考にしてください。

内容が緊急なので、失礼をかえりみず、みなさまに、発信したことを、お許しください。

【1999/3/13 ○市より着信】

寺地様、

御無沙汰いたしております。いかがお過ごしでいらっしゃいますか。

その後小生のマンションも順調にリフォーム工事が進んでいるのですが、やっかいな話が持ち上がって参りました。とある住人の方が(女性40歳独身)もともと喘息持ちだったのですが、発作が続き、医者に相談したところ、「シンナーアレルギーだろう」との診断をされたというのです。あと2ヶ月工事が続く間、断続的にシンナーは使用せざるを得ない状況のようで、現在彼女は自身の判断で近くのウィークリーマンションに避難しています。

施工業者の第三者賠償責任保険でカバーできるかどうか調査中なのですが、管理組合としてもどのような対応が可能なのか検証してみることになりました。

このような事例は他に報告されているのでしょうか。あるいは世の中にも類似の事例はあるのではないかとも考えられたのですが、○○建設の担当曰く、「永年やってるが、自分にとっては初めてのケースです」とのこと。

もしも何か知見をお持ちでしたら教えていただけないかと思い、お問い合わせ申上げるものです。治療費、あるいは工事期間中の仮住まいなどの費用補填という話になるとして、保険が効かないとすると管理組合も施工側も手詰まり、ということになりかねない懸念があります。

お忙しい所誠に恐縮ながら、お知恵を拝借できると幸甚に存じます。

では。

【1999/3/15 寺地より返信】

メールを拝見
たいへんなことになりましたね。

私もマンション改修での、こういう事例は聞いたことがありません。ただ、大いにあり得る話ではあります。

10年ほど前に、新築工事中に、隣のマンションにお住まいの方から、「とんでもないにおいだ、私を殺す気か!?」と、匿名の投書をいただいたことがあります。このときも、シンナーでした。

シンナーアレルギーという言葉は聞いたことがありませんが、有機溶剤による中毒は問題になります。 マンション改修は暮らしている器のまま、修繕するので、こういうことも起きるのですね。

有機溶剤を使わない、水性塗料という手段はありますが、もう、塗料も手配済みでしょうから、今からでは現実的ではありません。

>施工業者の第三者賠償責任保険でカバーできるかどうか調査中なのですが、管理 組合としてもどのような対応が可能なのか検証してみることになりました。

保険では、入居者や第三者に怪我をさせた場合は、賠償責任が生じて、保険の対象ですが、 たとえば、 工事に伴う騒音・振動で、情緒不安定になって、入院した、とか工事に伴う有機溶剤の使用で、シンナーアレルギーになって、引っ越したというようなケースは、聞いたことがありません。

>このような事例は他に報告されているのでしょうか。あるいは世の中にも類似の 事例はあるのではないかとも考えられたのですが、東レ建設の担当曰く、「永年 やってるが、自分にとっては初めてのケースです」とのこと。

類似の事例は、少なからずあるとは思います。ただ、こういうケースは、公開されていないと思います。私も、聞いたことがありません。

保険がきかないとすると、この責を、施工者に負わせることは難しいでしょう。むしろ、発注者側の指示で、塗装工事をしているのですから。

私も、何のお役にも立てなくて、申し訳ないのですが、私なら、施工の担当者とともに、損害保険会社に掛け合いに行きます。損保の世界は、先例のないような補償については、担当者の熱意で決まるようなところがあると常々聞いています。

上からものが落ちてきて怪我をするのも、 シンナーのにおいで具合が悪くなるのも、 同じように、賠償責任が発生するのではないかということを、管理組合としても、損保会社に強く要請してみることです。何もしないよりは、なんらかの回答が引き出せるかも知れません。

ごめんなさい。 わたしも、こういう事例をはじめて聞いたので、こんなことくらいしか、思いつきません。

続報を、また、寄せてください。 具体的な個々の対応策として、何かヒントを申し上げられる可能性はあります。

明日、竣工検査(建築指導課検査)を控えて、取り急ぎ、お返事いたします。ではまた。

------------------ 私の返信 ----------------

実例 大規模修繕 HPの長谷部です。

お役に立つかどうか分かりませんが、私のところの事例をお知らせします。

 防水処理を始めるとすぐに、臭いがひどいとの苦情が出ました。業者の方が、塗料を水性のものに変更して事なきを得ました。○市の場合は可能なのかどうかは分かりませんが、「長年やっているから.........」という理由で、対策を真剣に考えないのは、少々問題のような気がします。私たちの場合も、以前は出来なかったが、最近良い塗料が開発されたので、可能になったそうです。寺地さんは専門家ですが、いかがですか。

 補償の問題ですが、その点に入る前に、何とか対策を考えようという誠意を示せば、同じ住民ですから、こじれないと思いますが。工事現場に住んでいるようなものですから、少しは我慢しようという気になるようにつき合えませんかね。甘いかな。要は対応の早さと誠意を見せることだと思います。

 ピントはずれかもしれませんが、参考になればと思いまして、メイルしました。


-------------- 終結後のNさんのメール --------------

○○○コーポ○市のNです。

こちらは梅雨の終わりも近い蒸し暑さが感じられます。大変ご無沙汰いたしてお りますが、いかがお過ごしでいらっしゃいましょうか。

本日(7月4日)弊マンションでは定時総会が開かれ、その中で理事の交代と5月 末に終了した大規模修繕工事の総括が行われました。私も理事を退任することと なりましたが、この機会にシンナー問題で数々のご助言をいただきました皆様方 に直近の状況を報告申上げ、合わせてお礼を申上げたく筆をとりました。

3月に発生した事件のあらましはすでに皆様へご相談申上げているとおりです。

皆様からの貴重な助言により、判明したことは以下のように整理できると思います。
1) 保険求償を考えた場合、施設賠償責任保険に加入していないとかなり難し い。仮に加入していたとしても保険会社との交渉を経ないと即補償されるという ことにはならない。
2) 補償されることが確定したあかつきにも、因果関係特定のため医学的検査が 必要になることが予想される。抗体検査など、本人の負荷も相当程度生じる可能 性。
3) また補償限度額、足切りなどにより、いわゆる全額補償にならないことも常 識的に発生しうる。

直近の状況はどうなっているかと申しますと、工事終了後1ヶ月を経た現在も当 事者はアパート暮らしを余儀なくされていまして、つい先週もマンションへ来て みると体が匂いに反応してしまい部屋に入れなかったということだそうです。

ご当人はもともと近くの町の古い家にお住まいだったところ、ご兄弟の結婚で家 が狭くなるためマンションを購入したとの経緯があり、弊マンションでは比較的 新しい住人です。やや気になってはいたものの持病の喘息がシンナーでこれほど 悪くなるとは工事が始まるまで思わなかったようです。

理事会からの真摯な対応もあり、現在のところ一時避難にかかる経費については 自己負担を納得してくれているようですが、ご当人はマンションを売ることを考 えておいでのようで、実際に買いたいという人も現れているとのこと。理事会の 「祈り」として、売却益(大規模修繕直後なので弊マンションの相場は上がって いるらしい)により一時避難の費用がまかなえるようなことになれば・・・との 思いもあるのですが、今日現在ではまだ結論は出ていません。

いずれにせよ、体質が災いしてマンションのような集合住宅には長期的には住め ないことが判明した以上、売ったとしてもこの先どうされるのか、理事としての 立場を離れても気がかりなところです。とはいえ今後理事会を通じて本件に関わ る話をまとめる立場ではなくなることから、中途半端なことは百も承知で一度総 括報告させて頂こうと思いました。

最終的に彼女がどうしたのか、判ったらその情報は別途流させて頂くとして、と りあえず今日の所は冒頭申上げましたとおり理事退任に際して皆様に御礼を、と 思いましたので。本当にこれまでいろいろとご助言いただきありがとうございま した。今回の事例が皆様のマンションで大規模修繕をされる際に何らかのお役に 立てればそれがせめてもの収穫かと思います。

それではどうか皆様お元気で。ご助言の数々ありがとうございました。

1999年7月4日 自宅にて