初めての理事 

初めて理事になったときの心構え

はじめに ー本マニュアルの作成の背景と目的ー

 このマニュアルは、マンションの管理に関心のある人たちが集っているメーリングリストの中から生まれました。MLの中でマンション管理の問題点が話されていると、原因は居住者や理事の人たちの無関心が根本にあるが、それは「管理組合の理事が管理組合のことを知らなさすぎる」「自分たちの資産を自分たちで守る意識が希薄である」事にあるという認識になりました。
 それじゃ、初めて理事になった人に役立つ基礎知識マニュアルを作ろう、問題点を整理して、自分たちも勉強しようという事になったわけです。作業はメールで行われたため、ほとんどお互いの顔は知りません。熱意だけで集った仲間です。

1 なぜ管理組合が必要か ー理事としての心構え二つー

 集合住宅の場合は、個人の専有部分以外の面積が大きく、それらの共有部分の維持管理が必要となります。戸建て住宅の場合も、建物の外壁、屋根、駐車場等は自分で管理しなければなりません。その意味で基本的には戸建てと同じですが、集合住宅の場合は、規模が大きいこと居住者全体に管理義務があることから、管理組合が代表して管理を行う必要があるのです。

 理事としての心構えの第一点目は「自分達の財産を自分達で管理しているのだ」という認識をしっかり持つ事です。決して管理会社が管理しているのではありません。ここで言う財産とは、単なる不動産価格のことでなく、安全性、快適性、等の住環境、管理費使用の適正性等全体を含んでいます。

 第二点目は、管理組合は後述するように区分所有法という法律で定められている組織だということです。自治会のような親睦組織でなく、数億円の財産を管理する法人と同等の資格なのです。したがって、その運営には透明性、公平性が求められます。

 これを読んでいるあなたは、「不運にも順番で理事になってしまった」と思っているかもしれませんが、居住者としての義務を順番に果たすと考えるべきなのです。このマニュアルでは、以上二点をもう少し説明したあと、管理組合の業務内容を具体的に説明します。

2 管理会社との関係 ー管理費は有効に使われていますかー

 集合住宅では普通管理会社が管理を代行している例が多い。それは居住者による管理組合では日常管理が難しい場合が多いからです。しかし、本来は自分たちの財産ですから、自分たちで維持管理するのが当然なのです。自主管理といって管理会社に頼らずに、管理を行っているマンションもかなりあります。ここでは、問題の多い「管理会社に管理を委託する場合」について、注意点を挙げます。

 言うまでもなく、管理の責任は居住者自身にあります。管理会社に任せっきりで、無関心な態度をとっていると、大変なことになりかねません。すべての管理会社がそうだとは言えませんが、少なからぬ管理会社は居住者にとっての適正な管理をしていないからです。一部には悪徳業者と言われるような会社もあるようです。

 「居住者にとっての適正な管理」が行われない背景には、いろいろな噂があります。管理会社は新築マンションの瑕疵(カシ:建築工事による不具合点)を隠すためや、退職人材の受け皿のために、デベロッパーの系列会社が多いとか、管理会社は昔ビル管理をしていたところが多いので、居住者側でなく建て主側に有利に考える体質だとか、外からでは確かめようもない話を良く聞きます。管理会社とは素人から管理費という金を巻き上げるところだという極論をはく人もいます。

 真偽の程はともかくとして、居住者としては管理会社を頭から信用して任せるのでなく、自分たちの責任で管理内容をチェックする必要があるのです。管理組合は共有部分と住環境という自分たちの財産を管理するために、管理会社をしっかり監督する責任があるのです。以上のように文字にすると、大変仰々しくなりますが、平たく言えば「自分たちのお金(管理費)が有効に使われているかに関心を払いましょう」ということです。自分の小遣いや家計費には敏感ですが、数千万円にもなる管理費の使われ方には無関心すぎませんか。無駄遣いをしていると、大規模修繕工事の時に各戸あたり数十万円の一時金が必要になりますよ、ということなのです。

3 管理組合と理事会の法的根拠 ー公的組織ですが、自分たちで守る必要ー

 管理組合は自治会とは違い、その設置は法律に基づいています。だから新築マンションでは業者が必ず管理組合の設置を謳っているわけです。その法律は民法の特別法としての「建物の区分所有等に関する法律」(一般には「区分所有法」)です。しかし、この法律は大枠を規定しているだけで、まだまだ不備な点が多いのです。(詳しくは、巻末のリンク集参照)

 大切なのは法律論議ではなく、公的組織としての管理組合と理事会の基本姿勢なのです。理事会の活動を居住者に出来るだけ広報して透明性を確保する、少数の人が長年居座ったり、自説に固執して感情的な対立になるなど公平性を欠く事態を防ぐ、理事会を組織化し全員で課題を解決するようにすることなどです。

 総会を中心とした重要事項の議決の公平な手続き、その準備のための活発な理事会活動が法律の不備を補うのです。それは自分たちの住環境を守ることを意味しています。

4 管理組合の業務内容 ー多岐にわたるが、重要なものばかりー

 管理組合の目的=共有施設の維持、管理(ハードとソフトの両面を含む)
   共有施設とは、マンションの建物、土地、および付属施設を意味し、それらの
   施設自体と利用する組合員の共同の利益の維持管理が、管理組合の目的です。
具体的には、建物、集会室、庭園、駐車場、照明設備、給排水設備、TV設備などの
 1)清掃、手入れ、点検など
 2)修理、取り替え
 3)施設の変更、処分、移設
 4)施設の運用、使用
 5)損害保険等
などです。そして、以上の業務を行うための費用が管理費と修繕積立金で、居住者を代表して業務を行うのが管理組合役員(理事)です。

より具体的に列記すると

 a.総会の開催(年一回以上の開催が義務づけられている)
管理費の収支報告、実施事項の報告、管理業務の実施計画の上程などの他に、大規模修繕工事や大きな費用が必要な施設の変更、管理規約の変更などの重要案件の決議を行う。

 b.理事会の開催
日常の管理業務の計画と実施、管理会社の実施結果報告の検討と指示、住環境改善の検討等を行う。開催は毎月一回程度が普通のようです。理事会の議事録は、管理会社ではなく担当理事が作成し、居住者に速やかに公開するのが望ましい。

 c.管理会社との管理委託内容の検討と契約締結
毎年、契約更新するが、実際は自動継続になっており、問題点が表面化しない例も多い。管理会社との契約は総会での決議事項です。

 d.管理会社業務内容のチェック
清掃業務、施設点検と小修繕工事、管理窓口業務、管理費会計状況などを確認し、問題がある場合は改善を指示する。機械式駐車場、電気、水道、共聴施設などの点検を第三者業者に委託している場合は、その契約内容もチェックすることは重要です。

 e.長期修繕計画の立案
建物や施設の状況を診断(専門家に依頼等)し、大規模修繕工事の時期と規模を予測して、修繕積立金の見直しをする。管理費、修繕積立金の変更は総会決議事項です。

 f.駐車場や建物内の事故に対する損害保険
車による人身事故、水漏れ事故など費用のかかる問題が発生するので、事前に保証範囲は明確にしておきたい。

 g.ペット飼育に関する規則等の検討
居住者間のトラブルの中でも特に多いものです。新築入居時にペット禁止を謳っていても、その後ペット飼育をする人が増えて問題になる例も多い。

 h.駐車場、駐輪場の使用に関する細則の検討
駐車場が少ない場合は、利用権の抽選などの検討が必要。駐輪場も少ない例が多く、近隣の道路上に駐輪して、問題を起こす場合もある。

 以上のように、管理組合の業務は多岐にわたっていて、すべてはリストアップ出来ません。しかし資産価値を維持しつつ居住者が快適な生活を送るためには重要なことばかりです。理事全員で知恵を出し合い、代々の理事会で少しづつ解決していくようにして下さい。